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“プロの手調整”を超えた音場補正――ソニー ハイエンドAVアンプ「TA-DA9100ES」インタビュー(1/5 ページ)

» 2005年12月15日 02時41分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 昨今、AVアンプの音質改善はめざましい。昨年前半、ヤマハパイオニア、そしてソニーのハイエンドAVアンプの開発に携わった人物の取材を行ったときに強く感じたことだが、昨年末はその流れが中級機種にも飛び火し、AVアンプ的に豊富な機能やDSP効果だけでなく、スピーカーを駆動するというアンプ本来の機能において、質の追求がなされた。

 コスト面での制約から、中級機種ではどこかに力点を置いた設計にならざるを得ない面もあるが、上級機となれば全方位的に優れた品質を求めることができる。上記の3社以外も含め、十分なコストと時間をかけられる最上位機種はその後のAVアンプのトレンドを推し量るものになると同時に、AV機器メーカーとしての方向と見識を問うものになるに違いない。

 その中にあって12月から出荷される「TA-DA9100ES」は、ソニーが「まだまだ高級オーディオ機器を作れる」という実力を示す仕上がりとなった。最近のソニー製品は、以前のような突き抜けた実力がないといわれることもある。しかしこのDA9100ES、そしてプロジェクターの「VPL-VW100」などは、大企業となってからも音質と画質にこだわってきたソニーの“良い側面”が端的に表れている。

 今回はDA9100ESにフォーカスを当てて、その音質と新機能に触れたい。

photo ソニーAVアンプ「DA9100ES」

下位機種では達成できなかった力強さ

 ソニーのデジタルアンプ技術「S-Master Pro」を採用したAVアンプに関しては、これまでもDA9100ESの前身であるDA9000ESだけでなく、DA7000ESに関しても取材記事を掲載してきた。

 DA9000ESの長所はなんといっても力強さだ。サッパリとして余分なものを付加しない音は、ある意味での潔さを感じる。音像の輪郭がハッキリとして、透明感があり、スピーカーから音がダイレクトに飛んでくるような力強さがある。

 スパッと切れ味鋭い感触がある半面、余韻に複雑な響きが少なく、音の粒度もやや荒く単純な印象もあるが、それはDA9000ESの弱点であると同時に魅力的なところでもあった。デジタルアンプにありがちな、力強いが心に響かないといった類の音ではないところが、当時は新しさを感じさせたものだ。

 一方、DA7000ESはDA9000ESとは打って変わって上品で繊細な音を奏でる。音をあまり着色しない方向のアンプだが、場の雰囲気、楽器の質感を伝えるだけの豊かな表現力を持つ。音の粒度も低く、音場の中を粒子が浮遊するのではなく均一に広がった気体のようにその場に溶け込む。音像の輪郭は多少甘めで、低域には腰の弱さも感じるが、何よりその質感表現のていねいさは上位機種だったDA9000ESを超えるものがあった。

photo DA9000ES、DA7000ES、DA9100ESの機能比較
photo

 アンプもデジタルの時代を迎え、下位機種でも新デバイスと同時に出てくれば、その恩恵をストレートに受けられる。DA7000ESが良い音を出せた理由は、まさにそこにあった。S-Masterが32ビット化され、微細な音のニュアンスを失わずに済むようになったのである。コスト面でどうにもならない部分もあるが、それ以外ならば、デバイスチップ自身の進化によって、ある切り口においては上位機種を凌ぐ。アナログアンプでは考えられなかったことだ。しかし、ではすべての面でDA7000ESがDA9000ESを超えたかと言えば、そうでない部分も少なくない。

 DA9100ESの音というのは、DA7000ESと同じ方向の音に、DA9000ESと同じような力強さを与えたものだ。基本はDA7000ESの路線。しかし、そこに物量をかけることで腰の弱さがなくなった。これはDA9000ESの後継機種というよりも、モンスター級のDA7000ESだ。

photo 今回の取材に応じてくれたのは、おなじみソニー・ホームオーディオカンパニー・コンポーネントオーディオ事業部AVエンターテイメント部商品設計1課シニアエレクトリカルエンジニアの金井隆氏
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