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コンシューマービデオカメラの表現はどこを目指すべきか小寺信良(1/3 ページ)

» 2005年12月19日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 昨年から今年にかけてのコンシューマービデオカメラ市場を見ていると、どうもDVカメラというのは緩やかに衰退へと向かっているようだ。そもそもDVフォーマットのビデオカメラが登場したのが1995年のことだから、もう10年を超えていることになる。十分安定した技術ではあるが、もうテープの時代じゃないだろうというムードが、なんとなく広がりつつある。

 今年発売された、動画が撮れるという意味のビデオカメラを眺めてみると、いくつかのレイヤーに分けられることに気付く。まず最上位には今年ブレイクしたHDVがあるのだが、これはまだバリエーションと言えるほどの種類がない。

 そしてその下には、いわゆるSD解像度で撮れるカメラ群がある。ここは、いくつかのブロックで縦割りできるようだ。まずメディア別に分ければ、DVテープ、DVDメディア、メモリーカード、HDDに4分割できる。あるいはコーデックで見ると、従来型DVの4:1:1、MPEG-2、MPEG-4に3分割できる。また出自から分けるというのも面白いだろう。これはDV型ビデオカメラからの派生群と、静止画用デジカメからの派生群に2分される。

 ビデオカメラがテープメディアから離脱しようという動きには、いくつかの技術的要素が絡んでいる。まずMPEG-2のエンコード技術が市民権を得るとともに、性能も急激にアップしてきたことが上げられる。これは、DVDレコーダーの市場競争によってもたらされたものだ。

 一方でMPEG-4エンコードのビデオカメラは、未だ満足できる画質のものは現われていないという印象を持っている。これはやはり、優秀なリアルタイムエンコードチップがまだない、という面は大きいように思える。おそらく携帯電話では映像通話が当たり前、という時代が到来しないことには、ビデオカメラの画質にまでは波及してこないのではないか。

 つまりこれらの事象でもって何が言いたいかというと、実はビデオカメラの開発というのは、レコーダーやケータイなど、ほかの市場に依存している面が少なくないということなのである。ビデオカメラだけのために新規でチップ開発というのは、なかなかコストが許さない。ある意味ビデオカメラの記録技術革新とは、ほかの産業の成果を上手く借り入れていくことでしか実現できないという宿命を持っている。

温故知新が上手く行ったデジカメ市場

 静止画のデジカメ市場がここまで大きくなった要因を考えてみると、やはりその根底には、ある時からフィルムカメラの置き換えということを真剣に考えて、邁進してきたというのは大きいように思う。

 こんにちのデジカメブームを遡っていくと、その源流としてはカシオの「QV-10」あたりに行き着くだろう。だが当時QV-10を支持した人は、これがまるっきりフィルムカメラの代わりになると思っていたわけではない。それよりも、デジタル的なハンドリングの良さに注目したのである。

 だが技術革新とともに画質が向上し、解像度も上がって行くに従って、いつの間にかデジカメの目標として、フィルムカメラが射程距離に入ってきた。そう気付いてからのデジカメは、展開が早かった。

 フィルムカメラ用のレンズは使えないか、レンジファインダ式はどうか、といったアプローチが試みられた結果、それぞれが高い評価を得た。古いものも新しいものも共に生きることを許容することで、多様性が生まれた。使用目的を限定しないことで、芸術性が確保された。

 ビデオカメラの弱さは、まさにこの部分なのではないだろうか。これまでも各ビデオカメラメーカーは、そのマーケット拡大に尽力してきた。子供や孫を撮るしか使い道がなかったビデオカメラに対して、小型化、高精細静止画、女性的なデザインとカラーリングといった工夫で、一家に1台的な一般家電へと転身を図ったわけである。

 だが筆者は、ビデオカメラはそこで何かの舵取りを間違えてしまったように思う。販促にいろんな手段を講じてきたものの、基本的な撮影シチュエーションである「子孫撮り」にプラスして、「旅行撮り」というところまでは来たが、それ以上の発展はなかった。

 ビデオカメラは、芸術性を捨ててしまうことで、多くの人に門戸を開いた。だがそれゆえに、自らの伸びしろを封印してしまったように感じてしまうのだ。デジカメのように、撮ったものが芸術に変わるマジックを、ビデオカメラは内包していない。撮ったショットを1つ人に見せて、「ああ、いいね」という会話が成立するような世界観を作ることに、失敗してしまった。

 それは、ビデオカメラが目指すゴールが、リアリズムへと偏りすぎていたから、ということにはならないだろうか。

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