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タイムシフト視聴は民放にもメリットがある西正(2/2 ページ)

» 2006年03月10日 11時55分 公開
[西正,ITmedia]
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 サーバが蓄積しておいてくれる物を後で視聴することが可能になれば、「見逃した」視聴者はいなくなる。昼間帯の再放送の必要もなくなり、昼間帯は昼間帯らしい番組を放送することも出来る。スポンサーのバッティングが起こらないようにとの配慮が再放送には付いて回る。昼間帯らしい番組を制作するにもコストはかかるが、スポンサーも時間帯にあった企業などを付けやすいという効果もある。

 それでも民放がサーバ型放送に消極的になるのは、広告放送である以上はスポンサーの手前、リアルタイム視聴を前提に考えている姿勢を崩せないからだ。

 そもそも、これだけHDDが普及しており、今後もさらなる普及が見込まれることからすれば、放っておいても各世帯でタイムシフトしやすい環境は整いつつある。サーバ型放送を行わなければリアルタイム視聴が増えるというものでもなかろう。

 NHKがサーバ型放送を推進している理由は、スポンサーへの配慮が要らないということだけによるわけではない。放っておいてもタイムシフト環境は整っていくことを踏まえ、むしろ勝手な編集行為などの不法な手法が広がる前に、テレビ局側で対処しておこうというものだ。

 コピーワンスの見直しが叫ばれているが、不正使用がなされないのであればともかく、そういう可能性を否定できないために、見直すにしても色々と考えておかなければいけないという状況である。

 不正な利用が可能になっていくと、著作権者・著作隣接権者の間に不安や不満がつのることとなり、番組制作への協力を依頼しにくくなる。報酬を高くするだけで解決できる問題ではない。

 そう考えれば、民放にとっても「見逃した」人を取り込んでいくことにより、次のリアルタイム視聴者を獲得できるというメリットが見出せるだけに、なるべく不正が起こりにくい形というものを進んで作っていく必要性は高いと思われる。

 それでもサーバ型放送には積極的になれないというのなら、ネット配信を活用することも検討すべきだろう。ネット配信といっても色々な形態のものが出てき始めている。USENの「GyaO」のように、広告モデルを採用し、CMは飛ばせない見せ方が出来て、なおかつVOD形式なのでコピーは出来ないように作られているサービスも見られる。一、二週遅れの番組であっても、好評であることを受けて再放送に乗り出すだけの作品であるならば、ネット配信事業者にとっても非常に価値の高いコンテンツとなる。

 そうしたコラボレーションが実現すれば、文字通りの「放送と通信の連携」になる。テレビ局側も「見逃した」視聴者を取り込むためだと考えれば、ネット配信事業者へリーズナブルな価格で番組を提供できるはずである。視聴可能期間は予め決めておけるので、あくまで「見逃した」視聴者対策としての使い方に限定することも可能である。

 テレビ番組のネット配信が進まないのは、著作権者・著作隣接権者に相応な報酬を支払えるだけの市場が形成されていないことと、不正コピーなどへの懸念が消えないという2つの大きな課題を抱えているからである。しかし、いつまでも「鶏と卵」の議論をしていても始まらない。本気で取り組めば不正コピーを防ぐ技術の活用も容易になる。2つの課題を同時に克服するためには、テレビ局側にもメリットがある点を強調していかなければならない。

 最新のドラマが一、二週遅れで視聴できるということになれば、ネット配信の利用者数も大きく増えていくことになろう。市場も健全に拡大していくことになる。

 現状では過去に放送した番組をネット配信することに苦労している。考えようによっては、過去に放送された番組であるが故に利用者も増えにくいし、相応な報酬を支払えるだけの市場も形成されにくいという「負のスパイラル」に陥っている。

 テレビ局にとって、番組の二次利用はありがたいことだが、著作権問題の解決に手間をかけるだけのビジネスにはなっていない。メリットが小さいのである。こうした状況を変えていこうとするならば、テレビ局側にメリットのあることが、市場の大きさと別のところで説明されるべきであろう。

 一、二週遅れでも視聴できるようになったとしたら、リアルタイム視聴が減るのではないかといった反論も聞こえてきそうだ。しかし、タイムシフト環境がこれだけ整っている中で20%を超える視聴率を稼ぎ出すドラマもあることを考えれば、懸念材料ばかり並べて閉塞しているより、前向きの考え方を採っていく価値の方が高そうである。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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