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PSE問題報道の舞台裏に思う小寺信良(1/3 ページ)

» 2006年03月20日 13時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 消費者からの反発を受けて経済産業省が3月14日に発表した特別措置は、公式な報道発表もあったことで、多くのメディアが素早く報道した。措置の内容については泥縄式といった批判も高いが、政府が4月からの本格施行に対して強硬な態度を見せる中、経済産業省製品安全課としては、自分たちが決められることの中でやれる、いっぱいいっぱいの手だろう。

 筆者もPSE法の問題について、先般から大手マスコミの報道を見ているが、どうも何かトーンが違うような気がしている。2月20日のコラムの冒頭では、法律とネットでの騒ぎの間に何かが抜けていると記したが、マスコミの報道はまたそれとも違ったところが抜けているように思う。

 今回はPSE法の問題を肴に、現在のマスコミ報道が抱える課題について考えてみたい。

PSE法問題の特殊な構造

 実を言えば例のコラムを書いて以来、筆者のところには新聞、テレビ、ラジオなど大手マスコミからぽつぽつ取材のオファーが舞い込んでくるようになった。だがこれも考えてみれば興味深いことである。

 例えば何かの問題を報道する際に、わからないことがあったとしよう。その場合、普通競合他社に教えてくれと連絡してくるだろうか? フジテレビの人が朝日新聞に、「この問題よくわかんないので取材させてくれないか」と言ってくるような図はあり得ない。同グループ傘下の産経新聞にはあるかもしれないが。

 これはつまり、テレビ、ラジオ側からみれば、たかだかインターネットのニュースサイトなどは競合他社はおろか、報道メディアのうちにも入っていないと見ていることの裏返しでもある。

 さらにこの点でもう一つ気付くのは、今回のPSE問題の特殊性である。取材をして調べていくという意味では、筆者も大手マスコミも、スタートラインは同じである。いや取材能力という意味では筆者個人よりも、組織力が使えてネームバリューもあるマスコミの記者のほうが、数段上だろう。それが筆者のところに取材してくると言うこと自体、今回の問題の特殊性がよく現われている。

 今回のPSE問題の特殊性とは、「議論の現場がない」ことである。そもそもPSE法を問題視し始めたのは、インターネット上のコミュニティだ。それは匿名掲示板であったりブログであったりSNSであるわけで、表に出たという意味では、坂本龍一氏を担ぎ出したJSPAの書名運動が突出しているものの、その活動の発端となったのは、やはりインターネットを使ったコミュニケーションである。そして今も議論や活動の中心は、そこにある。

 これまでの世論を騒がせた問題では、オフィシャルな議論の現場としてナントカ小委員会などがあり、オフィシャルじゃなくてもナントカシンポジウムとかナントカ研究会とか、どこかに人が集まる議論の場があるのが普通である。こういう実社会の中に取材の現場がある場合には、マスコミはその取材力をフルに発揮できる。

 PSE法問題において、リアル社会に存在する現場というのは、衆議院予算委員会や経済産業省の発表などがある。また当事者である中小の中古事業者に取材するという意味でも、現場がある。そしてそういうところへの取材は、大手マスコミの得意とするところなのである。

 だがPSE法と中古事業者の間に存在する反対運動のロジック、どういう議論が行なわれ、署名運動などの組織的活動がどこで発起されているのかが、大手マスコミにはさっぱりわからないままなのである。おそらく彼らには、民主党 川内博史議員が衆議院予算委員会や環境委員会であれほど食い下がっている原動力や情報ソースがどこなのか、知る由もないだろう。

 なぜならば、大手マスコミにとってインターネットの中は、取材能力の範疇外だからだ。つまり今回の問題の特徴は、どういう議論が行なわれており、どう民意が推移しているかを取材したいのに、カメラやマイクを持っていく先が存在しないということなのである。

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