ITmedia NEWS >

れこめんどDVD「南極日誌」DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2006年03月24日 11時16分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
前のページへ 1|2       

この作品が評価されるのは5、10年後?

 しかしこの作品、本国韓国では散々な評価を受け、興行的にも苦戦を強いられたようだ。それは先にも述べたようにホラーなのか、探検ものなのか、といった作品の区分けが難しく、映画的に中途半端な印象が先行してしまったからにほかならないと思える。

 日本でも昨年夏に劇場公開されたが、ビジュアルからは内容の推察が難しく、一般観客に作品の内容が届ききれずに興行を終了した。映像特典ではソン・ガンホが「このような体験は以前『復讐者に憐れみを』でも体験した。5年、10年経った時にこの作品の真価は『復讐者に憐れみを』と同様に評価されるだろう」と語っている。

画質・音質のクオリティはお墨付き

 画質に関しては液晶プロジェクターでの80インチスクリーン再生と、プラズマ42インチでチェックしてみた。いずれの方式で見ても画質は充分高画質。フィルム傷も見られず、見事なレベルに達している。

 スクリーン再生でもブロックノイズなどは全く感じることはなかった。プラズマでもそのクオリティは充分味わえるが、可能な人は是非スクリーンで再生してもらいたい。白の細かな表現が画面全体に奥行きを与え、より映画的な感動を体験できるはずだ。

 雪を舞台にした映画といえば「クリフハンガー」や「ホワイトアウト」が有名だが、CGを駆使した本作の映像表現は大画面こそ似つかわしい。

 音声はオリジナルの韓国語をドルビーデジタル6.1chEXとDTS−ESのマトリックス6.1chで収録。日本語吹替版は5.1chで収録している。吹雪の効果などが存分にリアチャンネルに回っているので、サラウンド再生は本作の場合、不可欠と言えよう。

 吹替えではソン・ガンホに「シュリ」「殺人の追憶」でも声を演じた山路和弘があたっている。ほとんど持ち役といった感じだが、無骨なソン・ガンホの声をかなりカッコよく演じているので、一連の作品を吹き替えで見ていないとやや違和感があるかもしれない。しかし、分りやすさと画面に集中すると言う意味では吹替えの存在意義は非常に大きい。

多彩な映像特典は見応えあり

 特典は別ディスクに1時間45分収録されている。映画に対するスタッフ・キャストの思いがしっかりと綴られているので、映画が今ひとつだと思ったからと言って、そのまま寝かせてしまうには惜しい内容となっている。

 まずは42分のメイキング。カンチョン・リゾートでソリを引く訓練の様子から始まるが、本当につらそうで役者たちが演技を超越したものを要求されているのがよく分る。

 ニュージーランドの実地訓練では100キロのソリを引くユ・ジテの姿や現場を訪問するニュージーランドの女性首相ヘレン・クラーク女史の姿も見られる。実際のロケではどうやって運んだのか、巨大なクレーンや扇風機が続々登場。撮影スタッフにはニュージーランドスタッフも随分参加した様子がよく分る。

 しかし、天候が良い中での撮影シーンも随分あり、映画本編と見比べると、改めて映画のマジックに驚かざるを得ない。

 おかしかったのは水中撮影のシーンで、おぼれる演技をする役者が恨めしそうに監督に目線を送るところ。監督も思わず「何だよ!」と苦笑しながら、言葉を返していた。

 削除シーンは約7分。装備を点検したり、借金の話をしてキャラクターに厚みを加えるシーンが中心だが、後半ユ・ジテが都会の夢を見る場面がカットされたのは惜しい。監督も最後までカットを迷ったと語っているが、よくうなずける名シーンだ。

 18分のキャストコメントは韓国での公開が終了した後に収録されたようで、巷での評判について触れているのが面白い。大体この手のVTRはお互いを誉めあって終わってしまうものだが、世間で相当厳しい扱いを受けたのがよく分るのだ。

 約6分の探検スーパバイザーコメントではキャストの訓練を指導したパク・ヨンソクが登場。実際に北極などに探検に出ているだけあって、リアルさについてのこだわりを覗くことができる。パク氏は自分が劇中のチェ隊長と同一視されることが怖いと語っているが、それはさすがにないだろう。

 共同脚本のポン・ジュノのコメントも収録。「大作のなので評価が割れることは望ましくなかったかも」と心中を吐露しているが、「大衆向きではないが、挑戦的な作品。韓国映画はいつも同じような作品ばかりと思っている人にこそ見てほしい」と監督に援護射撃を送っているのが好ましい。

 映像と画コンテの比較は最近では珍しくなくなったが、画コンテの丁寧なイラストは一見の価値がある。

 来日インタビューでは本国での興行的失敗がこたえたのか、ソン・ガンホもユ・ジテも慎重な発言が目立つ。しかし、イム・ピルソン監督はオタク魂が炸裂! 映画を製作する前に「南極物語」やジョン・カーペンターの「遊星からの物体X」を鑑賞、特に「物体X」はDVDの特典まで全て完全制覇したと言う。またH.P.ラヴクラフトの「狂気の山脈にて」なども読んだが、どの作品からも収穫はなかったと強気な発言をしている。

特典から感じるスタッフ・キャストの心意気

 本編ディスクに収録された音声解説では作品の60〜70%がアフレコだったことが明かされたり、メインの小道具である、イギリス隊の日誌をニュージーランドに忘れてきたなんていうボケ話も飛び出し笑わせてくれる。収録自体もビール片手にお気楽ムードが漂っている。

 しかしイム・ピルソン監督はここでもオタク魂を発揮!「『Xファイル』で観客は解けない謎にも慣れていると思った」とか「デヴィッド・リンチ監督の映画には説明が求められることはないのに、今回求められたのは納得できない」などと発言。「展開がリアルすぎて、意図が浮いたのかも」といった反省も聞かれるので、次作には是非期待したい。

 映画のみの感想であれば、今ひとつといった印象を拭い去れないが、特典を見ることでスタッフ・キャストの心意気を知る事ができるという点で本作はDVD向きの1作ということができよう。

 本編の画質・音質は言うことないし、特典も充実。価格も3990円と標準的なものなので、購入しても充分満足感は得られると思う。

 このような大作にいきなり新人監督を抜擢するという韓国映画界の勢いを感じる1作でもあり、もしかしたらソン・ガンホの言うように今後再評価される可能性も否定できない。そのとおりになるのか、否か、是非皆さんの目で作品を見てもらって判断していただきたい。

この作品を購入したい→amazon.co.jp

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.