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著作権法改正の動きとコピーワンス西正(2/2 ページ)

» 2006年03月31日 12時42分 公開
[西正,ITmedia]
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 放送局の制作現場で語られているのは、もしもコピーワンスを外すのであれば、デジタル放送自体が海賊版の原因になりかねないので、アナログ放送だけにしか出演しないと主張するタレントが多く出てくる可能性があるということだ。つまり、それだけ不正コピーに対する警戒感が大きいわけである。

 これはそうなってみないと分からない類の話だろう。しかし、放送局としてはそうした危機感を持っており、色々なところから取材を受ける際にそういう懸念材料があることを訴えても、あまり本気にされないのが実態のようだ。

 それは、放送局が権利者を説得すればいいだけのことではないかと言われてしまうことが多い。状況を理解している人はそうした言い方をしてくるし、説得に応じてもらうためには多少、権利料が増えてしまうと伝えても、放送局はもうかっているのだからそれぐらいのことは構わないではないかと言われて済まされてしまう。そういう時に出てくるのが、そもそも今のテレビ番組というのは本当に守るに値する番組なのかという話だ。

 日本のような国は、豊富な資源があるわけでもなく、人件費も高いことを考えたら、真の意味の知財立国というのは目指していくべき方向性として正しい。ただし、権利者の多くが不正コピーに嫌悪感を持っている以上、IP方式で再送信を行うのであれば、コピーワンスは外しようがない。そこのところを国民に説明するのが、政府の仕事なのではなかろうか。

 コピーワンスの問題については、いつもメーカーの人たちとも話すのだが、メーカーの立場からすると、録画機が売れなくなることが困るのか、それとも、つまらない番組ばかりになってテレビが売れなくなることが困るのかと聞くと、やはりテレビが売れなくなるのが困ると言う。確かにテレビ部門とHDDレコーダー部門の社内的な縦割りもあって、今はHDDレコーダーの方が売れ筋なので、HDDレコーダー部門の声を無視できないというメーカーなりの悩みも抱えているという。

 しかし、放送の本筋は録画して見てもらうことが前提ではないので、コピーワンスを葬り去ってコピーフリーにしてしまうと、海賊版の危険性があるからという事情で関係する著作権者たちが減ってしまい、放送の番組の質を落とすことになりかねないのなら、本末転倒であるとしか言いようがない。

 2011年問題を控え、補完手段としてIP方式の地上波再送信は不可欠となっていくだろう。ただし、先に述べたように、単純にIPTV全般についての著作権法の変更は、二兎を追って一兎をも獲り損なうだけのことになる。そのためにコピーワンスを外すわけにはいかない。

 そうした制度設計をした人たちも視聴者の利便性を少なからず損なうことを覚悟で決めたはずだ。視聴者としても、そこについての理解は必要であろうと思うし、メーカーに対してはなるべくハード上の問題としての不具合が出ないものを作ってくれることを願うばかりである。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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