「これまでインナー型は9ミリのドライバを使っていましたが、今回は新たに13.5ミリのドライバを使ってモニター音質を徹底追求しました。モニターは900STやZ900HDでノウハウ蓄積してきましたので、これをインナーで実現したらどうなるかというアプローチです」(間利子氏)
EX90の音響設計を担当したのが、太田氏だ。
「まずどうしたら音が良くなるかを、デザインも何もない状態から考えていきました。ドライバユニットから出てくる音を、いかに調整してきもちよく音を作っていくか。EX90には、音響を調整するための部品がいくつか入っています。通常2つ、多くて3つの部品で特性をコントロールしていくんですけど、今回もっと精密にということで、当初4つ投入しました」(太田氏)
「スピーカーと違ってイヤフォンの場合は、こういった音響部品で特性を整えてやらないと、なかなか本来の音にならないんです」(角田氏)
「ただ、最初の試作では納得いかなかった。そこで1パーツ追加すると良くなるということがわかってもう1回試作、さらにもう1個追加してまた試作、トータルで6個、音響部品が入っています。お金もかかるし工数もかかって辛い部分があるんですけど、音だけは妥協しない。ぎりぎりまで調整しました」(太田氏)
このこだわりは、ボディの設計を担当した松尾氏の仕事に直撃する。
「1つ部品を追加すると、再度それぞれの部品のバランスを取り直さなければならないんです。当初調整部品4つで金型もスタートしたんですけど、もう1つ追加したいと言われた時は正直断わろうと思いました。ですが実際に試作機を聴いてみると、これは変えざるを得ないと。苦労はしたんですけど、追加部品を入れられるような構造に再度つめなおしました。結局これを2回やったわけですが」(松尾氏)
EX90の分解モデルを見せてもらったが、イヤフォンという小さな筐体にしては、内部部品が異様に多い。確かにたったこれだけのスペースに音響部品を6つも入れ込むのは、至難の業であったろう。
「どの部品がどうということは、企業秘密もあって言えないんですが、これらのパーツの中で音響に効いていないのはブッシング(イヤフォンから延びるケーブル部)だけじゃないでしょうか。それ以外の部品は、イヤピースに至るまですべて音質調整に関係があります。ソニーがアドバンテージがあるのは、これらの部品の使いこなしが長けてるのかなと」(角田氏)
「筐体もアルミを採用しました。通常プラスチックが多いんですけど、金属を使って一番効くのが、不要な振動が抑えられるということです。オーバーバンドのヘッドフォンでは木を使ったり別の金属を使ったりと、いろんな実験をした経緯があって、この材質はこんなニュアンスという蓄積したものがありました。すべてのケースでアルミがいいわけではなく、今回は音響的に相性が良かったので採用したんです」(太田氏)
「これまで密閉型では9ミリのユニットを使っていて、そのため非常に小さく作れるので、装着感が優れていたわけです。だが13.5ミリのユニットを導入して、その装着感をキープできるのかというのが、課題でした。そこでは、当社のある資産が大活躍しました」(松尾氏)
といって見せていただいたのが、膨大な数の「耳型」である。ここにあるのはまだほんの一部で、総数400以上あるという。
イヤフォン設計部署では、伝統的に部署員の耳型を取る。型を取る担当というのが代々決まっていて、太田氏がその4代目「耳型職人」だそうである。社内で変わった耳、小さい耳の人がいると、お願いして型を取らせて貰うというから、これが仕事じゃなかったらナニカがギリギリな感じである。
「耳型のいいところは、切断して断面を見ることができるところです。大量にある耳型を研究しながら、13.5ミリのドライバをどう配置するかといろいろ考えた結果、ユニットに対して軸をずらして、ダクトの部分を斜めに付けることでうまくいきそうだとわかってきました」(松尾氏)
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