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れこめんどDVD「ガンバの冒険 DVD-BOX」DVDレビュー(1/2 ページ)

» 2006年05月26日 20時00分 公開
[サトウツヨシ,ITmedia]

「ガンバの冒険 DVD-BOX」

発売日:2006年4月28日
価格:2万4990円
発売元:デジタルサイト
上映時間:807分(本編)
製作年度:1975年
画面サイズ:スタンダードサイズ
音声(1):ドルビーデジタル/モノラル/日本語

 子供の頃、風邪をひいて熱を出して寝込んだときのイヤ〜な悪夢といえば、石に変身させられるか、ノロイが枕元に立つ感じだった私めが、今回れこめんどさせていただくのは70年代TVアニメーションの名作のひとつ「ガンバの冒険」です。

 「シッポを立てろー」「シッポにじーんとくらあ」「シッポにかかわるゼ」なんてな威勢のいいガンバの名ゼリフもさることながら、「薄汚れたドブネズミどもよ〜」は、「お前はどこのワカメじゃ」もとい「この薄汚ねえシンデレラ!」(by 石立鉄男「少女になにが起こったか」より)に匹敵、歴史に残る悪役キャラの象徴的なセリフでありましょう。

その演出、なんてったって出崎印

 凶悪な白イタチ・ノロイの恐ろしさを際立たせたもの。それはパースの効いたアオリ気味の止め絵「カキーン(効果音)」、さらに陰影がザザーッて斜線「ダーン(効果音)」。そう「あしたのジョー」とか「エースをねらえ!」でもよく見たあの感じ。出崎統監督による大胆かつシャープな演出によるところがかなり大きいのです。

 まさに芸術的コラボレーションともいうべき相乗効果を生んでいるのが小林七郎美術監督の仕事です。どっピーカンの太陽、勇気を奮い立たせる夕日、絶望的な朝日。または真っ暗な海、「海だー」って叫びたくなるような海、「これも海なんだ」って畏怖を感じる海。これらを見事な背景で表現しています。

 同梱の「映画版ガンバ 冒険者たち〜ガンバと7匹のなかま〜」に収録されたコメンタリー(出崎統監督と吉川斌プロデューサーとの対談)によりますと、「ガンバに簡単には海を見させない」のも物語冒頭の裏テーマだったとか。

 パチンコ屋の屋根裏で育ったガンバは、ぼーっとした親友ボーボを誘って「海が見たい」という理由だけで川くだりの旅に出ます。着いたのは夜の港、いろいろあって仲間たちとノロイ島への冒険に乗り出すべく貨物船の倉庫に潜入するもまだ夜。海を見られてない。船旅がはじまるや、船酔いでダウン。まだ見られない。話数にして第3話、ヨレヨレになりながらも絶望的に長いはしごを上ってついにそれを見る。

 「海だー」ってガンバが叫びつつ見た海は、セル画ではなく小林七郎美術監督による背景をアニメーション化したものだそうです。本作はこうした「間」の美術が随所に見られます。

 生まれてはじめて見た海。昔読んだ詩を思い出しました。

 「『そうか、海は海だってことか』と呟いた。そうしたら、急に笑い出したくなった。『そうさ、これは海なんだよ、海という名前のものじゃなくて海なんだ』」――谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」

 こっ恥ずかしいですか? そんな少年時代もみんなありましたよね。今じゃなんだか汚れちまった悲しみにって、思いっきりオッサンなわけですが。

忙しいIT戦士のみなさんにつまみ食いレビュー

 で、正味の話、結構忙しいんでBOXセットを手に入れた満足感でよしとしてしまいがちですが、子供の頃のトラウマもとい思い出を頼りにつまみ食いで見ていくのもアリかと。

 たとえばサラリーマン生活の悲哀に重ねてしまうのが第5話「なにが飛び出す? 軍艦島」。弱肉強食の無常観が描かれます。ノロイ島に向かう途中、腹ペコで迷い込んだ座礁した軍艦。水底に缶詰を見つけるも巨大魚ハタがいて手が出せない。一か八か飛び込んだガンバに襲いかかるハタを捕らえたのは、飢えたウミネコの群れ。嗚呼、無常でございます。

 あるいは第17話「走れ走れノロイは近い」では、仲間内のリーダーを交代制で受け持つことで困難を乗り越えます。ガンバ、ボーボ、ヨイショ、ガクシャ、イカサマ、シジン、忠太のキャラ立ちが見事。「ジーコのリーダー論 一人の天才をつくるより、“和”をつくるほうがずっとむずかしい」(1993年刊)ばりに役に立つエピソードですな。

 今でも思い出すにつけ、これは子供心にキツかったなあ、と思えるエピソードが第8話「ボーボが初めて恋をした」。ラブリーなタイトルとは裏腹に「戦うことの意味」を突きつけられます。黒ギツネと戦って、島のリスたちを助けようとするガンバたち。しかしリスたちの反応は「むしろ英雄気取りのお前らが来てから戦争になった」とピシャリ。「無敵超人ザンボット3」でも描かれた戦いのジレンマが展開します。冷戦、安保の時代背景にある重〜いテーマを婉曲的にTVアニメに背負わせた気がしますが考えすぎでしょうか。

 最終回のカタルシスは自分の目で確かめていただくとして、特筆しておきたいのはラス前のホントにキツい場面が描かれる第23話「裏切りの砦」、第24話「白い悪魔のささやき」。

 弟・純太を人質に取られた太一は、ノロイに操られ裏切りに手を染めることに。頼みの綱の食料庫・米俵が砦の噴火口へと消えてしまう。このときの絶望感といったらありません。夜中にDVDを見ながらガンバと一緒に絶望する私。ある意味シュールです。

 さらに追いうちをかけるのが、その後の太一の身の振りです。重い足取りの裏切りの逃避行もままならず、結局土下座で出戻り。ノロイの陰謀を暴くべく、自らの命を投げ出し単身、立ち向かい……。ってそのときの太一の目がもう斜線、絶望、南無。

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