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放送制作の現場に聞く、デジタルテレビ放送の+αインタビュー(1/2 ページ)

» 2006年05月30日 09時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 地上デジタル放送の普及に従い、「放送のデジタル化」という言葉を耳にする機会も増えてきた。いまだ全国を完全カバーしたとは言えない視聴地域や、見直しの気運が高まっているコピーワンスといった課題もあるが、着実に普及の道を歩んでいるように思える。

 しかし、ハイビジョン放送をはじめとした「きれいな映像が視聴できる」というところだけが注目されており、データ放送や双方向番組に代表される「デジタルテレビ放送ならではの+α」は視聴者の理解も深くない状態だ。

 実際の制作現場では、そうした+αをどのようにとらえ、放送へ反映させていこうとしているのか。日本放送協会(NHK)でデータ放送や双方向番組、番組とインターネットを連携させた演出などを手がけているマルチメディア局 デジタル開発 副部長の田中寛氏に話を聞いた。

放送のデジタル化から始まった+αの提供

――まずは、データ放送などデジタル放送ならではの機能・特徴がどのような経緯で開始され、現在は、どのようなスタンスでそれらへ取り組んでいるかを教えてください。

田中氏: デジタル放送については1996年頃から研究が本格化し、1997年10月に当時の郵政省(現在の総務省)に設置されていた「地上デジタル放送懇談会」が放送のデジタル化を推進すべきとの報告をまとめたところがスタートラインとなります。

 電波の有効利用促進や諸外国の事情をかんがみたというのもありますが、テレビ放送のデジタル化については、「映像のクオリティ向上」「高機能化」の2つが大きな目標として掲げられました。そこで、NHKとしては2000年12月に開始したBSデジタル放送から、高機能化のひとつとしてデータ放送の提供を開始しました。

photo NHK マルチメディア局 デジタル開発 副部長の田中寛氏

 データ放送については2つのスタンスで提供しています。1つはテレビ放送の番組編成とは関係なく、ニュースや天気予報など情報性の高いものを集めた、データ放送だけで完結する「独立型」。もう1つは視聴者参加型クイズ番組など、情報と時間を視聴者と共有する双方番組に代表される「番組連動型」です。

 データ放送にはデータ放送ならではのメリットもありますが、データ放送だけを強調するのではなく、放送しているテレビ番組を見てもらうための仕掛けとして考えています。テレビ放送を主として、どういった楽しみ方や機能をデータ放送でプラスできるかが基本的な考え方です。

――データ放送の仕組みをもう少し詳しく教えてください。

 データ放送は、放送波でBML(Broadcast Markup Language)のデータを提供し、テレビのブラウザで表示するという仕組みになっています。双方向番組の場合は、テレビに接続した電話回線、ないしインターネットという“通信網”を利用して、視聴者からのデータが放送局へ送られます。

photo デジタルテレビのリモコンに用意されている「d」(連動データ)のボタン

 ボタンを押すと画面が切り替わっていくのは、データ放送でもインターネットでWebサイトを見るのと同じですが、データ放送はあくまで放送(ブロードキャスト)なので、送信されているデータは各家庭に同じものが送信されています。タブを切り替えて、画面に映し出されているものを切り替えるイメージですね。

 ボタンを押せば任意のタイミングで情報が得られるという点だけを利用者から見れば、データ放送もWebサイトも近いように感じるかもしれませんが、やっぱり放送は放送で、通信は通信なんです。昔に比べればインフラとしての重要性が高まっていることもあり、通信の信頼性は飛躍的に向上していますが、そこはNHKとして担保できない領域です。

 一方の放送は私たち自身が冗長性を持たせ、障害の発生しにくい、“落ちにくい”サービスとして提供することを約束できます。放送局として、どういった内容がデータ放送サービスにふさわしいのかは常に考えています。

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