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「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言小寺信良(3/4 ページ)

» 2006年06月12日 09時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

DRMと補償金の関係

――ご自分で音楽配信ビジネスを立ち上げた立場として、今の巨大音楽ダウンロードサービスをどうご覧になりますか?

平沢氏: 現実として私がやっているように、すでにミュージシャン自身が制作・流通・決済が個人で可能なわけですよね。そういう状況の中で、一つの大手が沢山の楽曲を収集して陳列台に並べるということにどれだけ意味があるのか、ということなんですけども。反対に自分の楽曲を常に自分の管理下に置いて、どのようにお客さんが来ているのかを自分でモニターしながら活動を続けていくことと、最終的にどっちがアーティストにとって利益が大きいのか。ミュージシャンとしてマスに支持されることよりも、音楽をやることの動機のほうが勝っている人にとっては、そういうマーケットは向かないですよね。

――しかし人が集まれば、プロモーション的には有利ではないかと思うんですが。

平沢氏: それすら配信のテクニックや、インターネット上でのプロモーションでの仕方次第だと思うんですよ。音楽というのは聴いてみないとわからないじゃないですか。聴いてみて良かったらお金を払ってくれればいいと。半分そういう気持ちがありますね。昔「Grateful Dead」というバンドがありまして、音源はコピーフリー、それで良かったらコンサートに来てね、という姿勢もあるわけです。


 平沢氏の作品も、自身のサイトからかなりの楽曲が無償でダウンロードできるようになっている。

平沢氏: メジャーレーベルを辞めて自分で配信するようになってからは、作品の売れ行きは伸びて、マーケットも広がってます。無料のMP3配信を監視していると、ダウンロードが24時間止まらないんです。そうしているうちに、次は世界中からCDの注文が入ってくる。そう考えると、無料で音楽を配信すること、コピープロテクトをかけないことは、プロモーションにつながるんです。これはものすごい威力ですよ。お金を払ってまで欲しいと思ってくれなければ、やってる意味がない。違法コピーしてそれで満足してしまうようなものであれば、それは自分のせいだと。作品がその程度のものでしかないと判断する姿勢を、今のところ持っています。

――つまり音楽配信においても、DRMなど必要ないのだと。

平沢氏: 必要を感じてないですね。つまり私は音楽がデジタルコンテンツ化以前と今とでは、さほど変わりはないと思っているわけですね。昔はカセットでコピーして友達同士でやりとりしていたし、オンエアされたものをエアチェックしてコピーしていたわけですよね。それがデジタルコンテンツになったところで、何を騒ぐんだということですよ。不思議に思うのは、客を泥棒扱いして、オマエが泥棒ではないということを証明するために補償金を払えと、言ってるわけですよね。これ自体私には理解できません。プロテクトや補償金の話はビジネスの問題であって、コピーするしないは倫理の問題じゃないですか。彼らは倫理を大儀にして、ビジネスしているだけなんですよ。

――補償金は、JASRACを離れた平沢さんにも支払われているわけですか。

平沢氏: ちゃんと分配されています。支分権の一部をJASRACに登録していますので、連絡先と振り込み先は知っていますから、分配されるわけですね。ですがお金の振り分け方は、私にも全くわかりません。


 実際に、平沢氏に対して支払われている録音補償金のリストを見せていただいた。これをよく見ると、面白いことがわかる。1993年にリリースされたP-MODELのアルバム「big body」に収録されている、「BIIIG EYE」と「BIG FOOT」という2曲に注目してみた。

 録音補償金は、過去4年分に遡って支払われているが、この2曲を見ると、CDの売り上げ枚数のところが「0」となっている。なにぶん古いアルバムのことであり、現在は入手難のため、これはわかる。

 だが補償金の徴収料金は、「BIG FOOT」が245円、「BIIIG EYE」が172円と、違いが出ている。同じアルバムで売り上げなし、しかもどちらもシングルカットされていない曲でなぜ補償金の額が違うのか。もちろんJASRACは、各曲が誰がどんなメディアに何回コピーしたかなど、まったく関知していないし、調べる手段も持っていない。

平沢氏: さらに補償金は、誰に対して補償しているのかも問題ですよね。世の中にはJASRACに登録されていない沢山の作品があり、その人達の楽曲がコピーされているケースも数多くあるわけですよね。つまりそういう人たちには分配されないのか、ということですよね。

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