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私的録音録画制度に潜む問題対談 小寺信良×津田大介(2)(1/3 ページ)

» 2006年06月19日 17時14分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 映像と音楽、それぞれのエキスパートである小寺信良氏と津田大介氏に「著作権」をテーマとして語ってもらう対談の第2回。前回は「ここ2年で著作権をとりまく環境がどう変わったか?」を中心としたが、今回は現在も文化庁で審議が続けられている「私的録音録画補償金制度」をテーマに語ってもらった。

なぜメディアチェンジは起こらないのか

――私的録音録画の問題については、2006年度から新たに私的録音録画小委員会(関連記事)を設けて検討を行うことになりましたが、委員会を傍聴していると、勉強会とも言うべき会合が2回にわたって行われるなど、議論を深めているというよりも、逆戻りしているような印象があります。

photo 小寺信良氏

小寺氏: せっかく議論が法制問題小委員会であそこまで煮詰まったのに、委員の入れ替えをしてしまったら、またイチからやり直しです。勉強は宿題として自宅でしてきて欲しいという感じですよ。「音楽CDのDRMはどうなっているんですか?」なんて発言まであったらしいじゃないですか。

津田氏: そもそも音楽CDに有効なDRMがなかったいから今みたいな問題がたくさん起きて、僕みたいな人間がああいう委員会に呼ばれてここで議論しているんだという(笑) 何なんだって感じですよね。

――私的録音録画小委員会では「制度の廃止も見据えて」という前提で議論を開始した訳ですが、DRMなど技術面からのアプローチだけである程度の解答を見いだせる可能性はあるのでしょうか?

津田氏: 音楽CDにDRMをかけて提供者側の完全なコントロール下に置くことは現実的には不可能です。基本的にはDRMはコンテンツと再生機の双方に有効じゃないと効果を発揮しませんが、CDとCD再生機は20年以上前から市場に提供され続けている。そういう機器までさかのぼってDRMを有効にするなんて実際には無理じゃないですか。

 ただ、現実問題としてPCでのCDコピー/リッピングは増えている。これに対処するため、音楽業界側はCCCDなどのアプローチを試みた訳ですが、消費者から反発されたうえ、最後は海外でSony BMGがCCCDにRootkitを混入されるというすごいオチまでついて定着しなかった。EMIとMicrosoftが次期Windowsでもう少し進んだコピーコントロールを行おうと取り組んでいるようですが、本当に懲りないというか、そこまでやったところで大枠で見ればPCを使った音楽のコピー状況に対して大きな変化は起きないように思いますね。

 CCCDが登場する前からSACDやDVD-AudioといったDRMがCDに比べて強固なメディアは存在していました。それらのメディアへ完全移行できていれば、今日のような問題は起こらなかった。でも実際はCDがあまりに普及しすぎていましたし、レコード会社も踏み切るタイミングを見定めることができませんでした。次世代メディアに移行する社会的なコストもバカにはならなかったのでしょう。

 PS3はSACDも再生可能なので、PS3が世界的にバカ売れすればSACDの時代がくるかも知れませんが、あの価格(下位モデルで6万2790円)でバカ売れってことはまずあり得ないですよね。せめてWiiにSACDに再生機能が付いていたらなぁ(笑)

小寺氏: メディアチェンジには「分かりやすさ」が必要なんです。LPと違ってCDはプチプチ音が入りませんし、劣化もしにくい。VHSとDVDで比べれば、DVDは頭出しや収納が便利であるという利便性を備えている上に、ソフトの価格が圧倒的に安い。次のメディアチェンジにも、これぐらい分かりやすいメリットが提案できないといけない。

津田氏: SACDやDVD-Audioで5.1ch再生できますと言われても、どれだけの人がその機材を持っていますか? 192kHzの高品質と言われてもそれをハッキリと認識できる人がどれだけいますか? 確かに音質の違いは存在しますが、CDで十分という人も多いはずです。

 レコード会社側には、CDではコピーが簡単にされてしまうから、DRMの強固な次世代メディアに移行しようという考えがあったのでしょうけれど、大多数の消費者からしてみれば「音質はCDで十分だし、コピーして外で聞けないような不便な次世代メディアなんていらないよ」という反応になる。音質だけを問うならば、MDというハードとメディアがあれほどヒットした理由が説明できませんからね。

 音質と利便性だったら、まず間違いなく大多数の消費者は利便性の方が重要なんですよ。着うたフルだってあんなに音質悪いのに、auのところに「音質悪いんだけど」っていうクレームはほとんど来ないそうですから。それどころか「着うたのときは音質悪かったけど、着うたフルになって音質良くなったよねー」みたいな感じらしいですよ(笑)

――メディアチェンジでコピーを制御することもできない。しかし、コピーされ続けても著作者に対価が支払われない。そうした状況の是正するために補償金制度が設けられたわけですが。

津田氏: とにかくネットでコピーされている、そうした状況があった場合、アメリカの場合はコピーされているという事実をイコール需要があると認識して、そこでビジネスが行えるかどうかを考えますよね。YouTubeにMTVがコンテンツを提供するなんて話は象徴的だと思います。日本の場合はまず違法なモノを排除してから物事を考えてしまいます。

 これは「良い悪い」というレベルの問題ではなく、日米の考え方の違いなんでしょうが、すべてを監視できるわけじゃないネット上で、違法なモノを違法なモノを押さえ込むにも限界があります。米国はビジネスのやり方を考えた方がいいという発想ですね。もちろん、どこでバランスを取っていくかが重要になりますが。

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