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表現機としてのビデオカメラ、次のステップ小寺信良(1/3 ページ)

» 2006年06月26日 10時35分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 コンシューマビデオカメラは、21世紀初頭に解像度インフレとも言えるメガピクセル競争時代を迎えた。動画も静止画もこれ1台で、という理想の元に、静止画機能強化による差別化を行なった結果、今日のビデオカメラの姿がある。

 だが、動画と静止画に求められる性能は、同じにはならない。ただ高解像度で静止画が撮れても、それは写真と言えるのか。この疑問にいち早く気づいたのが、キヤノンであった。ご存じのようにキヤノンという会社は、レンズ、写真機、プリンタなど多くの部門でトップを走るイメージングデバイス企業だが、ビデオカメラだけは一度もトップを取ったことがない。ビデオカメラの世界では、巨人とも言えるソニーがいるからである。

 キヤノンの功績は、ビデオカメラに静止画カメラの論理を持ち込んだことにある。例えば動画をシャッター速度優先、絞り優先で撮るといった考え方は、それまでのコンシューマビデオカメラではまず考えられなかった。

 ビデオカメラだからといって、光学物理の法則が違うわけではない。シャッター優先、絞り優先にすれば、静止画のカメラ同様に違った映像表現ができる。だが、ビデオカメラを買うユーザーには、そういう違いなどわかるはずがない、というのが、それまでの業界の論理だったのである。

 だがデジカメの爆発的な普及により、消費者の映像に対するリテラシーは飛躍的に向上した。それまでは何かあるごとに「写ルンです」を購入していた層が、一斉にコンパクトデジカメに移行した。そしてこれまでフィルム式コンパクトカメラで満足していた層は、ことごとくデジタル一眼へアップグレードした。

 カメラの質が飛躍的に向上したことで、撮影方法や撮影するものにも変化が生まれた。今や普通の女性がデジ一眼ぶら下げて街を散策いう姿も、珍しいものではなくなっている。

デジカメがもたらす映像リテラシー

 2002年ぐらいまで、ビデオカメラ市場を支えていた購買層というのは、結婚して子供ができた、いわゆる「新米パパママ層」であった。その次に、もともと映像に興味のあった退職者層が占める。パソコンでビデオ編集をうたうパソコンの売上の過半数を占めるのは、未だにこのシニア層である。

 ビデオカメラもそれに合わせて、製品は2分化されていった。10万前後で買えるリーズナブルエントリー機と、20万オーバーのハイスペック機である。

 だが、近年は事情が変わってきた。いくつかのカメラメーカーの発表によると、ビデオカメラの購買層は徐々に未婚世代に広がっているというデータもあるが、それは本質的な変化ではないと思っている。

 ビデオカメラ購入動機の1位は、やはり子供がきっかけという点は、これからも変わらないだろう。ただその新米パパママ層というのは常に刷新されていくわけで、そこを占める人たちの映像リテラシーが、デジカメの普及により変化している、というところに気づかなければならない。

 この世代は、ビデオカメラの何たるかを知らないわけはない。ヘタをすれば、自分の子供の頃の姿がビデオで残っているような世代である。動画とは撮ってすぐに内容が確認できるというのが、当たり前の世界観を持って育ってきた。

 そして映像に興味を持った段階でデジカメが台頭、ビデオカメラでの当たり前が、写真でもできることに対して、違和感なく溶け込んだ世代である。そして写真機としてのデジカメの表現能力を体感している世代が、今改めてビデオカメラを手にしたとき、価格に対するその撮影機能の稚拙さに衝撃を受けることは想像に難くない。わー、わが子がテレビに映ってるーで喜んでた時代とは、あきらかに映像に対する価値感が違う。

 発色、画角、深度、コントラスト、解像感。映像のクオリティを構成する要素はいくつもあるが、写真文化に比べてビデオカメラの映像は、臨場感、つまりいかに生々しいかという点に特化してきた。これは突き詰めていけば、テレビ局が求める方向性でもある。

 だが家庭で蓄積していく記録映像という視点で考えれば、イヤになるほどの生々しさがはたして必要か。それよりも、記憶に近く、より美的な映像のほうが価値が高いと考え始めるユーザーが台頭してきて、おかしくない。

 決定的な差は、テレビ番組の映像が、それを見る人が現場にいないということを前提としているのに対し、家庭の記録というのは、撮影者も現場を体験している。リアルな記憶をこれから植えつけるのか、それともすでに持ち合わせているのかでは、必要とされる映像表現が違ってしかるべきなのである。

 ビデオカメラの映像表現や撮影機能は、新しいユーザーが感じている潜在的なニーズに合わせて、変わらなければならない。

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