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HD DVDレコーダーの「7月発売」に秘められた戦略コラム(1/2 ページ)

» 2006年06月28日 11時53分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 ついにHD DVDレコーダー「RD-A1」(東芝)が登場した。ライバルであるBlu-ray Disc(BD)陣営から既に「BDZ-S77」(ソニー)をはじめ、「DMR-E700BD」(パナソニック)、「BD-HD100」(シャープ)といったレコーダーが市場へ投入されており、タイミングだけを見ればずいぶんと遅れての登場にも感じられる。

photo RD-A1

 RD-A1はHD DVD-Rメディアへ最大約3時間50分のハイビジョン録画が行えるほか、1Tバイトという大容量HDDや、ハイエンドAV機器並みのハードウェアも搭載しており、40万円近い市場想定価格に見合った豪華な仕様だ。

 “東芝の夢が詰まっている”というコメントまで飛び出す製品だが、その登場によって、単純に「HD DVD/BDの次世代DVDレコーダーの競争が始まった」とは言い切れず、次世代DVD競争の覇権を狙うHD DVD陣営の戦略すら見え隠れするように思える。そのワケはRD-A1をじっくり見てみることで浮かび上がってくる。

リライタブル非対応、プレーヤー機との非互換性

 RD-A1は「HD DVDレコーダー」として紹介されることが多いが、実は、その名称からして若干のエクスキューズがつきまとう。厳密に言うならば、「“現時点での最新規格”に対応したHD DVD搭載のHDDレコーダー」と表現すべき製品なのだ。

 記録型HD DVDの規格には追記型のHD DVD-R/-R DLのほかにも、-R規格をベースに書き換え型規格とした「HD DVD-RW」、ランドグルーブ記録方式を採用した書き換え型規格「HD DVD-RAM」が存在しているが、本製品はHD DVD-R/HD DVD-R DLのみの対応となっており、書き換え型HD DVD規格にはいずれも対応していない。その理由は単純で、本製品発表時までに書き換え型の規格策定が終了しなかったからだ。

 しかし、HD DVD-RWメディアの発売は既に三菱化学メディアなどからアナウンスされており、遅くとも秋から年末にかけてはHD DVDの書き換え型記録も現実のものとなる可能性が高い。本製品もファームウェアの更新などで対応できれば問題ないが、「規格策定が終了していない以上、ハッキリしたことはいえない」(同社)と、将来性には若干の不安が残る状態となっている。

 また、RD-A1は再生について各種DVDとHD DVD-R/-R DLに加え、HD DVD-ROMをサポートするが、HD DVD-R/-R DLが再生可能なプレーヤーは現時点では本製品しか存在していない。5月中旬に発売された同社ノートPC「dynabook Qosmio G30/697HS」もHD DVDについてはHD DVD-ROMのみのサポートになっているおり、3月に発表されたHD DVDプレーヤー「HD-XA1」も同様。再生できるHD DVDメディアは-ROMのみだ。

 この非互換性によって、「レコーダー(RD-A1)でHD DVDディスクに録画したコンテンツを、プレーヤー(HD-XA1)で見られない」という、何ともしっくりこない状況が生み出されている。メーカーに非はなく、規格策定の遅れが要因ではあるが、DVDでの録画/再生に慣れ親しんでいる一般的なユーザーからすれば理解しにくい不思議な話である。

 こうしたケースは実は本製品の例が始めてではなく、世界初のBDレコーダー、ソニーの「BDZ-S77」が登場したときの状況にも似ている。BDZ-S77は登場時に策定完了していた最新のBD規格に対応していたが、録画再生できるBDメディアは書き換え型1層のBD-REのみ。BD-Rへの記録やBD-ROMの再生は行えなかった。また、その当時は他のBD製品も存在しておらず、録画した機器でしかそのメディアは楽しめなかった。

 ただ、HD DVDのライバルはいうまでもなくBDであり、「HD DVDレコーダー」として大々的なアピールを行うには、市場に流通するすべてのBDレコーダーを上回る(少なくとも対等な)メリットを提示する必要があっただろう。現時点におけるRD-A1は、HD DVDの持つ能力、可能性をすべて引き出した製品と思えず、本製品の登場をして「HD DVD/BDの次世代DVDレコーダー競争が開始された」とは言い難い。

 それではなぜ、書き換え型規格への対応や先行投入したプレーヤーとの非互換性など、マイナスとなりかねない要素をはらみながらも、東芝が製品化に踏み切ったのかを考察してみよう。

RD-A1は画竜点睛を欠いたのか

photo 執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社 社長の藤井美英氏

 HD DVDの「顔」ともいえる東芝の藤井美英氏(執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社 社長)は3月31日のHD-XA1の発表時、録画機の投入時期を問われて「6月のワールドカップには間に合わせたい」と返答している(関連記事)

 当時、その返答を聞いた筆者は藤井氏の返答を「ワールドカップ商戦に間に合うように」というニュアンスだと理解した。記録型HD DVDの規格策定に遅れが生じているという話も聞いておらず、遅くとも5月下旬には記録型HD DVDの規格をフルサポートした録画機が投入されると予想したのだ。

 しかし、予想は外れた。HD DVD-RW/RAMの規格策定が予想より難航したのか、あるいはRD-A1そのものの開発に時間がかかったのかは想像するしかないが、発売は7月14日とワールドカップの決勝より後となり、記録型HD DVDのサポートは追記型だけに留まった。

 「まずはHDDに録画し、必要な分だけを書き出す視聴スタイルは完全に定着しており、レコーダーの本質はHDDだと考える。RD-A1はHD DVDレコーダーではなく、あくまでも“HD DVD搭載のHDDレコーダー”として発表したいと思う」(藤井氏)

 藤井氏はRD-A1について、「最上級の大容量HDDレコーダー」というポジションを示す。確かにHD DVD録画機能の搭載はエポックメイキングな出来事ではあるが、藤井氏はそれよりも、HDDの容量をフル活用し、高画質・高音質にこだわり抜いたレコーダーであるこそが本製品の矜持であると説明する。

 確かに本製品の豪華さには目を見張るべきものがある。詳細は本田雅一氏のレビューを参考にしてもらいたいが、これまでの同社製ハイエンドレコーダー「RD-Z1」をも上回る作り込みがなされている。価格は決して安価ではないが、ハイクオリティな製品を求めるユーザーならば注目すべき点がいくつもある。

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