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ケータイメールに翻弄される子供たち小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年07月03日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ケータイを子供に持たせる最大のデメリットは、大人が自分の責任で使う機能がそのまま使えてしまうことだろう。すなわちメールであったりケータイサイトであったり、ダウンロードサービスであったりである。

 各キャリアには、子供向けのコースも準備されているが、各種発信・アクセス制限を行なうためには、専用の端末を使うことが前提となっている。子供が「やだこんなコドモみたいなのダッセーし」とか言いだしたら、もうアウトなのである。

 もちろん携帯電話によって巻き込まれる可能性がある潜在的なトラブルに対して、徐々にその認識がなされるようになってきたのは好ましいことだろう。財団法人インターネット協会では、携帯電話とインターネットのメール共通の問題点として、スパムメールや出会い系メールへの対処法をまとめている。

 学校でも、ケータイによって引き起こされるトラブルに関しての授業を取り入れるところが増えてきている。娘が通った小学校ではマナーや防犯上の問題として、道徳やホームルームの時間で扱われていた。

 一方中学校では、「技術」の時間で扱うようだ。筆者も娘が使うテキストを見せてもらったが、内容としては、インターネット協会で示しているガイドラインに近い。その仕組みや心理学的な効果などのテクニカルな側面から、出会い系やワンクリック詐欺を知るというのは、年齢的にもそろそろ理解できるはずだし、いいアプローチだ。

 闇雲に怖がらせたり不安がらせたり、とにかく見るな触るなと隔離するよりも、どのような仕組みでメールアドレスが収集されるのか、お金を巻き上げる仕掛けはどこに仕込まれているか、といったことを、ある程度の実物を見せながらパターンを教えることも、いい勉強になると思う。

 ただこの手の教育で、最終的に困ったら親に相談することで終わらせてしまう例が多いのは、踏み込みが足りないように思える。親だってそうそうワンクリック詐欺にひっかかった経験があるわけでもなし、ましてや大人なら普通引っかからないものに子供が引っかかってくると、こちらとしても対処の方法に困る。できれば親向けの対策ガイドラインのテキストまであると、安心できる。

 それぐらい自分で調べろよ親だろ、と若い読者諸氏は思われるかもしれない。いや筆者はそりゃ調べられますよ、調べるの仕事ですから。だがトラブルの解決法を、ネットでサクッとググれるスキルをすべての親に求めるのは無茶だ。

 子供にケータイを持たせることと、親のネットスキルが無関係に存在しているのが、今の現状なのである。

軽視されがちな精神的ダメージ

 スパムやワンクリック詐欺を誘発するようなメールが金銭的な被害を被るのに対して、子供に精神的なダメージを与えるのがチェーンメールである。迷惑メール対策の中では、金銭的被害がないために軽視されがちであるが、個人的な経験では、チェーンメールが一番タチが悪いと思っている。

 全く知らない相手からのメールは、捨ててしまえばいい。だがチェーンメールは、実際に知っている友人から回ってくるため、事態をより深刻に受け止めがちだ。

 チェーンメールにはいくつかのパターンがあるが、もっとも多いのが「不幸の手紙」系である。筆者が学生のころも、リアルメールで不幸の手紙は存在したが、メールの電子化により転送が簡単になったことで、一つのオリジナルがなかなか沈静化に向かわないのが現実である。

 最初にこの問題に直面したのが、ケータイを持たせて間もない、小学5年生の時であった。同級生から回ってきたチェーンメールの内容を要約すると、

・妊娠三カ月の友人がレイプされて殺された。
・犯人を捜すためにメールを出し、怪しいやつは殺す。
・メールを止めたら怪しいと判断して殺す。

 というものである。これは俗に「橘由美佳メール」または「橘あゆみメール」として知られているもので、初出は2000年頃だと言われている。

 文面を見れば、大人ならば一笑に付す陳腐なものだが、内容を真に受けた子供には恐ろしいだろう。チェーンメールなるものがあるということを説明し、この手のものが来たら他の人に送らないこと、そしてこういう怪しげなメールが来たら父ちゃん宛に転送して消すこと、というのが我が家のルールとなった。

 そしてこのメールのせいで「レイプってなに?」と聞かれたことに大変困惑した。いずれは用語として知る必要はあるとはいえ、それが5年生の今でいいのか、突然の判断はなかなか難しい。無差別連鎖がもたらす問題点は、こういうところにも現われる。

 このメールはほかの子供にも深刻な精神的ダメージを与え、学校を休む子も出た。まったくやりきれない話である。学校側でも事態を重く見たようで、ホームルームでも先生から不幸の手紙に対する対処の話があったようである。

 それ以降、娘のところに送られてくるチェーンメールをチェックしているが、内容的には怖がらせる目的ではなく、ワンクリック詐欺や出会い系サイトへの誘導へと変化してきている。例えば、

・このURLを見ると1日以内にずっとあなたが望んでいたことが叶う。
・URLを見る前に必ずこれを10人に転送すること。
・止めると5日後に最悪なことが起こる。

 これは俗に「ドラメェル」と呼ばれている種類のものである。不幸の手紙も世知辛くなったものだ。もし怪しげなメールが届いたときは、特徴的な一文で検索してみるといい。最近はチェーンメールを集めて分類・解析しているブログも増えており、簡単に正体を確認することができる。

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