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電車の中の「iPod」(1/2 ページ)

» 2006年07月05日 19時32分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 最近、「iPod難聴」という言葉をよく耳にする。iPodを使って難聴になったとして、米国で訴訟が起こされ、国内のメディアも盛んに取り上げているようだ。今年3月にはアップルが音量を抑制するアップデータを提供するなど、目立った動きもあった。

 たしかにiPodはイヤフォンジャックの最大出力が30mW+30mWとポータブルオーディオ機器としては大きいほうだ。しかし、それでも日本人の感覚としては、使う人の自己管理能力を先に疑ってしまう。大きな音を聴き続けると難聴を引き起こすことは「ウォークマン問題」の時代から知られていたことであり、たとえ知識を持っていなくても、大音量で聞き続けると耳の調子が悪くなるのは誰でも感じ取れるはずだ。

 仕事でやむなく大音量にさらされる人たちならともかく、趣味の音楽を自分の欲するままに聴いて難聴になったからといって、同情する人は少ない。むしろ、「さすが訴訟大国。ちょっとヒット商品を出して儲けた会社はすぐに訴えられる」――このあたりが一般的な日本人が抱く感想ではないだろうか。

 普通、コラムというと一般論を提示しておいてから反論することが多いのだが、ホントは上に書いた以上にシビアな考え方をしているので否定しない。それどころか、iPod難聴の被害者は、実は周囲に迷惑をかけた加害者だった可能性もあると思っている。

 それは音漏れの問題だ。`

 通勤や通学に電車を利用している人なら、イヤフォンから音漏れしている人たちを見たことがあるだろう。筆者の場合、最近は通勤電車のなかでiアプリの「数独」(sudoku、ナンプレなどと呼ばれる数字パズル。最近はPSPのCMでもお馴染み)をプレイして脳を活性化させるのが習慣になっているが、どこからともなく聞こえてくる音漏れは非常に気になる。画面に集中できず、ついつい同じ数字を同じ列にいれてしまうのだ。

 それはともかく、彼らが電車の中で音量を上げる理由も一応は理解できる。走行音をはじめ、風切音、人の会話など騒音が一杯。おそらく、常時60dB(うるさい感じだが会話はできる状態)から70dB(意識して声を大きくしないと話せない状態)で、瞬間的にはもっと上にいくだろう。雑音をシャットアウトしたいとき、イヤフォンで音楽を聴くのは確かに有効だ。

 しかし、雑音を聞こえなくするためにボリュームを上げるのは明らかな間違いだ。ボリュームを上げると対騒音のS/N比は改善されて確かに聞きやすくなるが、人間の耳はそんな刺激に長時間耐えるようにはできていない。なまじ適応性があるため、大きな音にも慣れてしまうものの、たとえばイヤフォンの外に漏れるほど大きな音(100デシベル以上)を聞き続けるのは15分間が限界とされる。逆にいえば、それ以上聴いていると騒音性難聴になる可能性が高い。これはウォークマンのときにも頻繁に言われたことだ。

 これ以上は思い出せなかったので検索してみたところ、健康関係のサイトを中心に騒音性難聴に関する情報がいくつも出てきた。参考までに要約してみると……まず初期症状としては4KHzを中心とする高音域の聴力が低下する(人間が聞き取れるのは20Hzから20KHz)。困ったことに日常会話に使う周波数より高く、本人は気づきにくい。このため、自覚症状がないまま悪化するケースも多いという。とくにひどくなると耳の中にある音を感じる器官(内耳有毛細胞)の欠損や変質を招き、治らなくなる。こうなると補聴器などを用いても改善しにくいというから怖い。

<訂正:初掲載時、初期症状として4KHz以下の聴力が低下すると書かれていましたが、正しくは4KHzを中心とする高音域でした。訂正します>

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