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映像配信における缶ジュースビジネス小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年07月18日 10時20分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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資産運用としてのコンテンツビジネス

 映像コンテンツビジネスを考えた場合に、映画・放送・次世代DVDのような、高画質・高品質の新作コンテンツを限りなく生産し続けるというモデルが一つある。だがこれには莫大な投資が必要であり、立ち止まることは許されないチキンレース的ビジネスである。

 映像コンテンツを一つの資産と考えるならは、HDのものはこれから生産しなければならないのに対し、SDコンテンツはこれまでで大量に生産してある。だが世の中的にはハイビジョンへの進行は止められるものではなく、今後放送でも、もはやSDのコンテンツはなかなか載りにくくなっていくだろう。

 この莫大なSDコンテンツを生かすには、なんらかの付加価値が必要になる。まずインフラベースで見た場合、それが放送メディアやセルDVDのようなビジネスではなく、缶ジュース並みの手軽さでどこでも手に入るライトなビジネスモデルである、というところはポイントになるだろう。ネットワークによる映像ダウンロードサービスは、これに対する一つの解である。

 その中では、映画のような長尺のコンテンツをダウンロードサービスで1本単価で売るというのは、無理がある。2リットルのペットボトルを、自動販売機に突っ込むようなものだ。やはりこの小売りモデルでは、10分、15分、30分程度の小型コンテンツを缶ジュース並みの価格で消費できるスタイルを定着させる必要がある。もし映画を売りたいのであれば、定額制のような仕組みを持ち込まなければならないだろう。

 もう一つの付加価値は、モバイルを前提にした再生機の、画面サイズにある。たとえば家庭向けVODサービスは今後もさらに伸びると思われるが、映像を投影する端末がハイビジョン化していけば、SDコンテンツは拡大表示しなければならない。この拡大するという行為が、映像品質の面でSDコンテンツに対する失望感をもたらす可能性は高い。

 一方モバイルを前提とした小画面での再生では、縮小表示を行なうため、オリジナルソースがSD画質でも品質が問題にならない。小型であることのメリットは持ち歩けることにあるわけだが、それにプラスしてSDコンテンツが綺麗に表示できるという付加価値に気づくべきなのである。

 80年代にベンチャーとしてケーブルテレビが勃興し、みんなが放送局になりたがった。だがほとんどの事業者は、コンテンツを自分で作る難しさに気付いていなかった。だが今は、ハイビジョンの大号令の陰で、旧SDコンテンツが大量に余るという時代に突入しつつある。ネットワーク配信ビジネスは、ある意味80年代のテレビ局へのあこがれを具現化する現実的な解であるのかもしれない。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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