富士通テンといえば、一般にはカーオーディオのブランドとしての認知度の方が高いのではないだろうか。“エクリプス”のブランドは、車業界では知らない者はいない。
その富士通テンがピュアオーディオに取り組み始めたのは、富士通のパソコンに付属したタイムドメインスピーカーの製造を担当してからのことだ。富士通テンはタイムドメインのライセンスを受け、その後、独自にこの理論を元にしたスピーカーを開発、発展させてきた。独特の卵形をしたエンクロージャーに、ペーパーコーンのフルレンジユニット。このスタイルを突き詰め、独自の音へと高めたのがトップモデルの「TD712z」だ。
今回は、同社のシリーズの中から、中核を担う8センチ口径のユニットを採用した「TD508II」を取り上げてみた。
“タイムドメイン”という言葉は、オンキヨーのスピーカー技術者だった由井啓之氏が提唱している理論だ。詳しくはタイムドメイン社のWebページを参照していただきたいが、簡単にいえば音楽再生を周波数バランスではなく時間軸で捉え、高音から低音まで時間軸をそろえてリスナーに聴かせようというコンセプトだ。
富士通テンが発売しているエクリプスシリーズは、その理論に基づいて設計されたスピーカーの中でもシンプルな卵形状をしているが、ほかにも筒状のエンクロージャーの頭頂部にスピーカーユニットを配置したものも商品化されている。
われわれはスピーカーの音を聴くとき、主に周波数のバランスで音の善し悪しを判断していることが多い。ちょっと高域にクセがある(つまり高域にピークがある)、低音の量感が足りない(低域の音圧が足りない)などだ。周波数バランスは音色に影響を与えるため、この聴き方が間違っているというわけではない。
しかし、一般的な構造のスピーカーでは、エンクロージャーの鳴きやバスレフポートからの音が、スピーカーからの音よりも遅れて聞こえたり、マルチウェイスピーカーではユニットごとに時間方向のズレが生じやすい。音楽を時間軸方向で順番に発音される音の集合体として捉えると、こうした時間軸の不整合は“音楽の形”を崩していることになる。周波数バランスは、ある程度、イコライザやスピーカー技術の進歩で補うこともできるが、時間軸のズレは補正することができない。
タイムドメインスピーカーは、この考え方を元にして、音楽の形を可能な限り崩さないようにしているというのである。もちろん、理論と実践は異なる。
TD508IIは、足の部分から伸びたフレームに直接リジッドにスピーカーユニットがマウントされ、フローティングマウントされた卵形の筐体で包み込む構造。背面下側にはバスレフポートが設けられており、不足する低音を補う。この際にポートからの音が時間的な遅れとして感じないかも、本製品を評価する上でのポイントとなるだろう。
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