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れこめんどDVD:「西鶴一代女」DVDレビュー(1/2 ページ)

» 2006年10月16日 09時15分 公開
[サトウツヨシ,ITmedia]

「西鶴一代女」

発売日:2006年9月22日
価格:4725円
発売元:東宝
上映時間:137分(本編)
製作年度:1952年
画面サイズ:スタンダードサイズ・スクイーズ
音声(1):ドルビーデジタル/モノラル/日本語

 世界のクロサワと並び称される巨匠でありながら、今ひとつ手が伸びない、というか格調高くて何だか見るのに決心がいりそうな佇まいのミゾグチ(溝口健二)作品。

 でもね、ブッ飛びますよ。スーパーマリオ、魔界村またはグラディウスばりの淀みない横スクロールのワンカット。映画用語では長回しって言うんですか。そこに彩りを添える情念のストーリーとダシの効いた役者がいれば、もうそれだけでいい。

 本作を皮切りに「雨月物語」(1953)、「山椒大夫」(54)と、3年連続でヴェネチア映画祭受賞となった、世界のミゾグチ作品の切り込み隊長「西鶴一代女」を体験してみましょう。

ミゾグチのカンペキ主義に応えた職人のワザ

 たとえばもう序盤からスゴイわけですよ。恋人・勝之介が不義密通の罪で斬首刑に処せられた知らせを聞いたお春(田中絹代)が、取り乱し家を飛び出し、竹やぶのなかを振り袖で走る、走る。それをやや見下ろす位置のカメラが延々、追いかける。ってどうやって撮ってるの? っつうか、いい竹やぶだなあってわけの分からない感心をしてしまいます。

 また、意外にもコミカルかつポップなシーンもあります。お殿様の側室(子孫を残すために迎える正妻以外の妻)探しのために、茶屋などが並ぶ通りに、ずらりと集められた娘たち。いわば街頭オーディションですな。

 お殿様の命を受けた爺やが、オーダー通りの娘をスカウトすべく路上を右往左往。「この娘はどうじゃ」「だめじゃ顔が長い」「おお丸顔、よいぞ」「だめじゃホクロがある」てなさまざまを滑らかに移動するカメラがとらえる。最後の娘に至ったとき「はあ、だめだあ」と途方に暮れる爺やの後ろで、娘たち全員がカメラの方を覗き込んでいる。

 ミゾグチはまったく難解じゃない。こんなにポップな、言ってみればコントを撮っているわけですから。ところで似たようなセンスの映像を「ナック」(66・イギリス映画)でみたような気がします。居並ぶモデルをカメラがゆっくりナめていく感じ。

 意識的にしろ無意識的にしろ、ミゾグチ作品は60年代のヨーロッパ映画の作家たちに多大なる影響を与えたといわれています。トリュフォー、ゴダールのヌーヴェルヴァーグはミゾグチなしでは生まれなかった、なんて説もあるとか。

 もうひとつだけ名シーンをご紹介。ラストの見せ場、側室として産んだ我が子・若殿様にひと声かけようと、近寄るお春。「ならん」と取り押さえる屋敷の者たち、それを振りほどき目で威嚇し引き下がらせる女の凄み、長い渡り廊下を遠近法で去る若殿様をヒューっと追いかけるお春、再び屋敷の者にとらえられ、ンガーっと戻ってくる。ここではカメラは固定、役者の縦の動きで魅せてくれる。横スクロールから一変、客観視点のダンジョンに放り込まれた感じでしょうか。

 カンペキ主義な画づくりをどうしても、ゲームやアニメーションのそれに重ね合わせたくなる私めであります。そうして見ると巨匠ミゾグチとのミゾがググッと埋まる気がします。

 その論考がアリなのか、全然なっちゃいないのかは、没後50年ということで続々と発売されるDVD、全国を巡回するという特別上映について、それはたくさん作品を見て、パンフレット「はじめての溝口健二」を拝読させていただき、確かめていきたいと思います。だめですか、そんなスタンスじゃ。

 また、本作には映画評論家・山根貞男氏による解説書、美術監督・水谷浩の仕事を、図面を交えながら解説する映像特典が付いており、長回しと流動的なカメラの動きでも破綻を来たさない、緻密なセットづくりが行われたことが分かりやすく示されています。

ご参考:WEB MIZOKEN http://www.kadokawa-herald.co.jp/mizoken/

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