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れこめんどDVD:「猫目小僧」DVDレビュー(1/2 ページ)

» 2006年11月10日 20時03分 公開
[皆川ちか,ITmedia]

楳図漫画の映画化は難しい

 かわいい、かわいい猫目君。うちにも欲しいよ、猫目君。ワン&オンリー漫画家・楳図かずお先生の「猫目小僧」が、同じく映画界のワン&オンリー監督・井口昇の手で3次元化! 漫画の実写映画化はもういいよ状態ですが、これは稀有な成功例。「漂流教室」にショックを受けた楳図ファン、カムバックなのら〜。

「猫目小僧」

発売日:2006年10月28日
価格:3990円
発売元:アートポート
上映時間:104分(本編)
製作年度:2005年
画面サイズ:ビスタサイズ・スクイーズ
音声(1):ドルビーデジタル/2.0chステレオ/日本語

 「おろち」「洗礼」「わたしは真悟」「神の左手 悪魔の右手」など恐怖度MAXのホラーから、“グワシ!”“サバラ!”と言葉感覚が素晴らしすぎる激烈ギャグ漫画「まことちゃん」まで、30歳前後までの日本人なら誰でも一度は楳図かずおの漫画を読んだことがあるはず。

 しかし1995年に長編「14歳 FOURTEEN」を完結させ、先生は休筆。以降はタレント活動を熱心に行っており、今では“TVに時々出てくる赤白ボーダーシャツのテンション高めのおじいちゃん”と、楳図かずおを認識している人も多いだろう。昨年に漫画家デビュー50周年を迎え、それを記念しての映画化が相次いだが、過去にも何作か楳図漫画は映画になっている。

 まず浮かぶのが、87年の大林宣彦監督「漂流教室」。原作の原型をとどめない大胆にも程がある改変によって、評価は最悪。今ではカルト映画扱いだ。続いて96年の「洗礼」。こちらは原作のテーマ“美醜”をうまいことすくい取り、小品ながらうまくまとまっている。ただ、これが楳図漫画の映画化の代表作というには、ちと淋しい。それも仕方がないかもしれない。何故なら楳図かずおの漫画は、実写化が難しいから。

 楳図かずおは、極端なことを突きつめて描く。美しさと醜さ(「洗礼」「赤んぼう少女」)、純粋なものと汚れたもの(「漂流教室」)、子供と大人の分かり合えない壁(「わたしは真悟」)。極端にして本質的なことをオブラートに包まずダイレクトに描写するために、楳図漫画は異様にして激しい。だいたい絵柄からしてそうだ。その異様さは2次元である漫画表現でならワンクッションを置いて受け止められるものの、3次元である実写にそのまま置き換えると、過剰すぎてどうしても無理が出てくる。

 実際にタマミちゃんが横にいたらあまりの不細工さに私たちは彼女を笑うし、頭がニワトリのチキン・ジョージ博士にどんな説法を説かれても、説得力は皆無。楳図かずおの過剰なまでの異様さをそのまま映像化しても、原作には敵わない。敵うには、同じほどの過剰さを抱えた映像クリエイターでなければ。

AV界出身の井口昇監督が強烈な個性を発揮

 さて、過剰にして異様なAV界からやってきた男・井口昇。独特のスカトロAVでカリスマ監督となり、特異な風貌をいかして役者として劇団「大人計画」の舞台に立ち、「クルシメさん」(98)、「恋する幼虫」(03)(題名からして過剰かつ異様)で一般映画にも進出。長年来の楳図ファンである井口監督が、「楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女」(05)に続いて手がけたのが、「猫目小僧」だ。

 300年に一度生まれる妖怪・猫又の子供、その名も猫目小僧。あまりに人間そっくりだったために妖怪たちから迫害され、人間からは嫌われて、放浪の旅を続ける猫目。東北地方のある村で、少女・まゆかと出会った猫目は、妖怪・肉玉と闘う破目に……。原作「妖怪肉玉」のエピソードをベースに、井口昇の個性を強烈に織り込んでいる。

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