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フルHDプロジェクターのススメ麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2006年12月08日 13時11分 公開
[西坂真人,ITmedia]

――デバイスごとのフルHDプロジェクターの特徴をもう少し詳しく教えてください。

麻倉氏: はい。ではまずLCOSですが、デバイスが持っている“高精細への対応力”が花開いたカタチですね。透過型液晶のように画素に対してパネル上にトランジスタを設ける必要がないLCOSは、開口部が非常に広くとれるため光を無駄にしないという構造上のメリットがあります。これが、他のデバイスに比べてフルHDで先行できた大きな理由です。

 2番目はDLPです。Texas Instrumentsは、DLPのフルHD化に2つのアプローチを用意しました。まず、リアプロでは、スクリーン上に1つの画素から2つの画素イメージを作るというスムースピクチャーという技術がありましたが、この技術はフロントにはフリッカー発生など問題があり、ネイティブな解像度でのフルHDデバイスが求められていたのです。今回採用されている0.95インチのフルHD DLPチップは、そうしたニーズからの製品です。DLPの特徴はなんといっても黒の再現性がいいこと。これは、黒になる部分の光を透過させず、鏡の働きで横にふってしまうというDLPの構造からくるメリットなのですが、一方でデジタル階調による暗部のビット不足、擬似輪郭ノイズ、カラーブレイキングなどのデメリットもあります。

 透過型液晶でのフルHDはエプソンの独占なのですが、その最新となる第6世代“D6”デバイス「クリスタルクリアファイン(C2FINE)」は垂直配向にしたほか、液晶パネルに電圧をかけないときに黒になるノーマリーブラックという技術で、黒浮きを減らしてコントラストを上げるという試みを行っています。フルHDでもコントラストは重要で、これまで透過型液晶の問題とされていたコントラストというウィークポイントを改善しました。そして配向膜も有機材料から無機材料に変えて、寿命も長くなっています。

 以上、フルHDプロジェクターが面白いのは、対応製品が増えてきたというのに加えてデバイスの競演という部分なのです。最終的に出てくる映像の中で、デバイスの占める割合は大きく、プロジェクターの評価でも各メーカーの画作りとともにデバイスからの観点でも分析できるのです。

フルHDの先駆者――「LCOS」

――では、今年登場した数々のフルHDプロジェクターの中で、印象に残る製品をいくつか挙げてもらえますか。

麻倉氏: まずは、ビクターの「DLA-HD1」ですね。ビクターは当初、業務用としてD-ILAプロジェクターを展開し、一昨年から家庭向けとして投入してきたわけですが、初期はホームシアターらしくない画作りでした。それが昨年の「DLA-HD11K/11KL/12K/12KL」から改善。ここにきて、モノ作りのレベルがぐっと上がってきた印象を受けます。しかも、今年の「DLA-HD1」は従来機よりも半額以下になっているわけですからね。

photo ビクターの「DLA-HD1」

麻倉氏: これはビクターが、独自のデバイスであるD-ILAを根本的から改善していくという取り組みを行ったからという理由があります。なにが感心するかというと、黒の再現性が非常にいいんですね。1万5000:1というコントラスト値自体はほかの製品でもありますが、ビクターはこれをアイリス(絞り機構)を使わずにネイティブコントラストで実現しているのです。

 アイリスを使えば数値上のコントラストは上がりますが、本来とは違う映像になってしまいます。これは同一画面での話ではなく、白ピーク画面と黒画面の二つの画面での輝度差を言っているのですね。ここが実は問題で、その恩恵に与れるのは、全面暗部か全面明部の場面を比べる場合ぐらいもので、実際は、ひとつの画面に明るい部分と暗い部分が混在するのですから、この値は現実には存在しないことになります。DLA-HD1は絞り機構無しのネイティブコントラストですから、本来の映像でこの高コントラストを出しているんですね。これが映像表現力につながっていくのです。コントラスト値が高いとビット(階調数)が必要になってくるのですが、ビクターの場合は、中間調の情報量も非常に多いのです。

 それともう1つ感心したのは、キセノンランプを使っていなくて、良い色味を出していることです。これまで、フルHDのハイエンド機は「画素もフルならば、色もフルじゃなければいけない」ということでキセノンランプを採用するケースが多かったのですが、キセノンランプは寿命が短く、ランプ1つが20万〜30万円もします。これでは広く一般向けには普及しません。

 ただしキセノンランプを使わないと赤の再現性が弱くなるため、それをカバーするため明るいランプを暗く使わなくてはいけないなどノウハウが必要になります。トータルな画作りが重要になってくるのですが、ビクターはここのところを徹底的に研究しているのです。今回の新製品は、キセノンに非常に近い画作りを超高圧水銀ランプで実現しています。トータルに考えても、DLA-HD1はこの季節のフルHDプロジェクターの中ではイチオシですね。

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