――現在フルHDを実現しているのは日本ビクターの「GZ-HD7」だけですが、各社もすぐさま追従するのでしょうか
麻倉氏: ビデオカメラのHD化に際しては信号処理など難しい側面もありますが、どこかが突破すれば追従するメーカーは必ず現れます。日本ビクターが2003年に「GR-HD1」で720PながらもHDビデオカメラという流れを作り出し、とうとう2006年の「GZ-HD7」でフルHDビデオカメラを登場させました。
実はAVCHDにもフルHDの規格は存在しています。ですが、新しいフォーマットの性能をフルに引き出すにはどうしても時間がかかります。日本ビクターはGZ-HD7で、撮影した映像をHDDに書き込む際にはMPEG-2を使う独自フォーマット、外部出力時にHDMIなどの標準インタフェースという手法を採用し、いちはやくフルHDビデオカメラという製品を世に送り出すことに成功したのです。
ですが、AVCHDを採用する陣営も間もなくフルHD対応機種を投入してくるはずです。松下電器産業とソニーのどちらが先行するかは注目ですが、個人的な感触としては松下電器産業の方が早いのではと感じています。
松下電器産業はHDビデオカメラ「HDC-SD1」にAVCHDのハイプロファイルを採用していますが、このプロファイルは解像度が高い映像でもディテールの表現力に優れるという特徴を持っていますし、採用している以上このプロファイルに適したICの開発と研究が進められているはずです。当初からフルHD化を念頭においていたと考えられます。
――HD化が進むのは納得できるのですが、テープメディアはこのまま急速に廃れてしまうのでしょうか。それともSD記録用のメディアとして生き残るのでしょうか
麻倉氏: 実はとても面白い状況なのです。販売店の話ではメディア別にカウントすれば、数量で最も売れているのはまだテープを利用するビデオカメラで、なかでもキヤノン製の人気が高いそうです。
ビデオカメラの場合はアーカイブという目的からして、技術的に先進的な製品よりも安心感のある製品で撮影し、保存したいという想いが働きます。1回限りの出来事を納めるわけですから、「従来からある」という信頼感、安心感はとても大切なのです。新しいトレンドや技術を提示すればある層にはアピールしますが、そうではないユーザーにとってテープであるという安心感は絶大なのです。
それに画質の問題もあります。AVCHDに代表される新しいフォーマットに比べると、MPEG-2に代表される既存フォーマットは絵としての安定感が2段階ほど優れています。「画質のよさ」はカギとなるポイントです。操作性や機能性を考えるとノンリニアメディアを採用した機種の方が優れていますが、テープを利用する機種では巻き戻したり、頭出しをする必要があるものの、画質面では一日の長があります。キヤノンの製品が売れているのは、画質が優れているからにほかなりません。
――AVCHDが規格として発表されたのは2006年の5月ですが、まだ画質面では改善の余地が残っているということでしょうか
麻倉氏: 現在のAVCHDの画質を例えるならば、「10年前のMPEG-2」とでもいえるでしょう。10年前のMPEG-2と言えば、DVDやCS/BS放送に採用された時期で、当初はかなりの高ビットレート/VBRでなければいい映像が出せませんでしたが、最近では低ビットレート/CBRでもいい映像が出せるようになってきました。それはひとえにうまく収めるためのノウハウの蓄積が進んだからです。
キヤノンや日本ビクター製品の映像が素晴らしいのは、ノウハウが蓄積されたMPEG-2によるところも大きいのです。AVCHDの実用化はつい最近のことで、良い映像を作り出すためのノウハウを模索している段階です。AVCHDはスペックだけならばMPEG-2よりも優れていますが、画質が追いつけるかは別問題です。
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