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「感覚的なよさ」を目指すソニーのオーディオインタビュー(1/2 ページ)

» 2007年04月04日 17時41分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 ソニーという企業を表現する際「AVのソニー」という言葉がよく使われる。AVはいうまでもなくオーディオ&ビジュアルの略であり、ビジュアルについては薄型テレビ「BRAVIA」の躍進が取りあげられることが多いが、果たしてはオーディオはどうだろうか。

 ウォークマンの成功が大きなインパクトとなったため、良くも悪くもそのイメージが浸透してしまった感はあるが、同社の手がけるオーディオ製品はシンプルなラジオから100万円オーバーの高級アンプまで多岐にわたっており、ひとくくりには語れない側面があることも確かだ。

 これまでにも高い音質と品質には定評のあるところであったが、その「ソニーのオーディオ」に近年、緩やかながら変化が表れている。

 2005年9月にはウォークマンのNW-A1000/3000で「インテリジェントシャッフル」などの斬新な機能をアピールしたかと思えば、半年後の2006年5月にはシンプルさを前面に押し出したウォークマン NW-Exxシリーズ、同年11月にはカエデ材を利用した高級スピーカー「SS-AR1」、2007年2月には“大人のコンポ”「System501」などをリリースしており、最近ではユニークな新機能の提案よりも「音質」と「使い勝手」を訴求する、いわば原点回帰型の製品が多くなっている。

 「ソニーのオーディオ」に何が起こったのか? 同社オーディオ事業の責任者である吉岡浩氏(コーポレート・エグゼクティブ SVP オーディオ事業本部長)に話を聞いた。

初めての経験となるオーディオ

photo 同社オーディオ事業を指揮する吉岡浩氏(コーポレート・エグゼクティブ SVP オーディオ事業本部長)

 吉岡氏は通信分野を専門とするエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、1979年にソニーへ入社。ビデオカメラの開発やメモリースティック事業の立ち上げを経て、2001年10月に創設されたソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの初代代表取締役社長に就任した。

 その後、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズABのCorporate Vice President 兼 PBU GSM/UMTSとしてのスウェーデン勤務を経て、2005年10月1日付に本職に着任している。ソニーへ入社して30年近くなるが、オーディオに携わるのは今回が初めてだ。

――オーディオ部門の責任者となって1年半ほどになりますが、着任当時の感想はいかがでしたか?

吉岡氏: スウェーデンはもういいかなって。まぁ、それは冗談として(笑)、オーディオはまったく経験のない分野ですが、「VAIOセンター」(VAIOと様々な機器を「メモリースティック」や「iLINK」でつなげる活動を推進していた仮想的な組織)という社内ボーダーレスの活動も経験していたので、オーディオ部門へ着任することに違和感はあまり感じませんでした。

――現職に着任した2005年10月といえば、満を持して発表したウォークマン A(NW-A1000/3000)についてユーザーから厳しい意見が寄せられていた時期です。ウォークマンの再生を任されたというプレッシャーはありませんでしたか。

吉岡氏: プレッシャーはあまり感じないタチのようで、「せっかくだからやってやろう」とポジティブに受け止めることができました。それに、似たようなチャレンジはこれまでにも多くありました。私は無線技術が専門ですが、入社時、ソニーに無線部門はありませんでしたし、携帯電話事業へのチャレンジ、スウェーデンへの赴任も同様です。

 それよりも着任して感じたのは戸惑いでした。当時はオーディオと言うだけでもホーム、パーソナル、車載、コネクトと4ジャンルありましたし、地域ごとのバリエーション展開も含めれば、それこそ製品数は数え切れないほどでした。まずはオーディオの範囲の広さに戸惑いました。

 まずは何から手を付けようかと考えたわけですが、着任から数カ月の間はコネクトの立て直しに注力することにしました。コネクトは当初、ひとつのエコシステムを作り上げるという目標を掲げましたが、「オーディオ」という本来の事業に回帰させることにしたのです。

(注:「コネクト」は2004年11月にスタートした、ウォークマンを中心にソフトとネットワークを融合した高付加価値製品/サービスの提供を目指した構想。同構想を推進する「コネクトカンパニー」が2004年12月に発足しているが、その後にカンパニーは「コネクト事業部門」に変更され、2007年4月の組織変更で第4ビジネス部門と改称された)

 つまり、まずは「ウォークマン」というブランドを活かしていこうと決めたのです。ソニー・エリクソンにも「ウォークマン携帯」というジャンルの製品がありますが、ウォークマンという名前を冠することには議論もありました。もうウォークマンという名前は古いという意見もありましたが、結果としては使うことでヒットに結びつきました。その経験からもウォークマンという資産は継承していこうと思ったのです。

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