一方でケータイ網ではないもうひとつのモバイルの形として、都市部に無線LANネットワークを配備するという計画がいくつかあった。2001年に「スピードネット」という会社がさいたま市で無線接続によるサービスを開始したが、NTTが急速にADSL事業へ舵を切ったために意味をなさなくなった。このサービスは家庭向けの固定通信サービスのラスト1マイルを無線でやるというスタイルだが、事業が続いていれば、ゆくゆくはモバイルにも転換しただろう。
05年にはライブドアが、山手線内すべてに無線LAN接続網を配置するという計画を発表した。当時は「D-cubic」という名称であったが、堀江社長逮捕などのゴタゴタがあって、なんだかよくわからない状況になっていた。調べてみると、「Livedoor Wireless」というサービスとなって、無事スタートしたようだ。
街頭無線アクセスポイントは、NTTコミュニケーションズの「ホットスポット」や、ソフトバンクテレコムの「BB モバイルポイント」といったサービスが存在するが、これらの利用可能ポイントは基本的にコーヒーショップやファーストフードといった何らかの店舗に限定されるのが難点だ。お茶を飲みながら、といったついでがあれば利用価値は高いが、路上でどこでも、というわけにはいかない。そういう点では、昔の公衆電話に近いイメージである。
もうひとつ別のスタイルのアクセスポイントの形としては、スペイン発祥の共有プロジェクト「FON」がある。これは自宅などの常時接続ネットワークに無線LANルータをつないで、お互い共有しようというものだ。専用ルータを購入する必要があるが、自分のネットワークを開放すれば、他の人のネットワークは無料で利用できる。
FONの強いところは、ほとんど個人ユーザーが提供するポイントであるため、都市部から住宅地までまんべんなく広がっているということだろう。もっともユーザー数がそれほど多くなく、また業務用ではなく家庭用小型ルータであるため、出力が低い。したがって実際のカバーエリアはかなり隙間だらけではあるが、活動がもっと認知されれば、将来的には期待できるかもしれない。
無線LANのネットワークが街中に広がったときに、我々の生活はどのように変わるだろうか。どこでもノートPCを広げる姿が数多く見られるようになるというのでは、あまりにも未来がないような気がする。
おそらくそうなったらなったで、それ用のモバイルデバイスが登場することになるだろう。そのひとつの形が、ソニーが販売する「mylo」なのかもしれない。初号機である「COM-1」が米国で先行発売されて一時期話題になったが、国内ではソニースタイルの限定発売となっている。
myloにできることは多い。SkypeおよびGoogle Talkによる通話とチャット、Webブラウジング、音楽再生、写真表示、ビデオ再生、テキスト表示と入力などだ。PCのオイシイ部分だけを抜き出して、小型化したような作りである。内蔵メモリ1Gバイト、メモリースティックDuoスロットもあるので、容量は自由に拡張できる。
先月中旬、筆者はNAB 2007(National Association of Broadcasters:全米放送事業者協会による展示会)取材のために渡米したのだが、そのときに1台のmyloを妻に渡し、もう1台のmyloを筆者が持参した。家との連絡は、これまでメールでやりとりしていたのだが、通話で連絡ができれば便利だろうと思ったのだ。
ところが実際には、まったく使うことがなかった。というのも、筆者側はホテルに戻らなければ無線LANで接続できず、妻も自宅に居なければ接続できない。さらに時差があるため、お互いが起きていて通話できる状態になっている時間帯が、ほとんどないこともわかった。
もちろんオンタイムでつがっていれば、通話もチャットも問題ないことはわかっている。試しに後日、福岡とサンフランシスコに在住の友人達に協力して貰って通話実験をしたが、国際電話並みのディレイはあるものの、意思の疎通には差し支えない程度の品質で通話できるのを確認した。
つまりmyloのようなデバイスがあっても、本気でいつでもどこでも無線LANが使える環境が現実に存在しなければ、ほとんど旧来の固定電話程度の役割しか果たさないということなのである。モバイルデバイスなのに、インフラの都合に縛られてしまうのが現実だ。また、skypeにはチャットもあるが、これは双方が同時にがオンラインでなければメッセージを送ることができない。メールのように送りつけておいて、相手の都合のいい時間に処理してもらえない点も、もどかしい。
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