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「DRMフリー」――新時代のオーディオコーデックを考えるデジモノ家電を読み解くキーワード

» 2007年06月21日 11時04分 公開
[海上忍,ITmedia]

AppleとEMIの“DRMフリー戦略”が呼んだ波紋

 EMI MusicがiTunes StoreでDRMフリーの楽曲を提供するという4月2日の発表は衝撃をもって受けとめられた。Appleのスティーブ・ジョブズCEOは今年2月にDRM廃止論を表明していたが、成果がすぐ現れるとは誰も予想していなかったはず。

photo iTunes Storeでは、いちはやく「iTunes Plus」としてDRMフリーの楽曲の取り扱いを開始した

 その数日後には米Microsoftが、Zune MarketplaceでEMIの楽曲をDRMフリーで提供すると発表。5月には米Amazonも音楽オンライン販売への参入を表明、EMIを含む1万2000を超えるレーベルの楽曲をすべてDRMフリーで提供する方針を明らかにした。MP3tunes.comなどDRMフリーのオンラインストアは以前から存在したが、今回の一連の流れは、潤沢なコンテンツを抱える大手レーベルが参加したことに意味がある。

DRMフリーの楽曲は“+α”で勝負

 ここで注目したいのが、各オンラインストアが採用するコーデック。iTunes Storeは従来どおりAAC、新規参入のAmazonはMP3。公式にはコメントしていないが、Zune MarketplaceはWMAを採用する公算が高い。

 DRMフリーとともに、高ビットレート化の流れもある。iTunes Storeで扱うDRMフリーのAAC(iTunes Plus)は、帯域に従来比2倍の256kbpsを適用。Amazonはビットレートを公表していないが、プレミアムダウンロードと称されたサービスであることから、低いとは考えにくい。コーデックの種類こそ違えど、DRMフリーで高ビットレート、価格は少し高めという「+α」を前面に出す販売戦略は、各オンラインストア共通と見ていいだろう。

DRMフリーの行き着く先

 オーディオコーデックを語るとき、音質を直接左右するビットレートに注目が集まりがちだが、前述したとおりDRMフリー時代では高ビットレートが当たり前、もはや高音質という触れ込みでは商品の差別化が難しい。各オンラインストアとも、楽曲の品揃えはもちろん、アルバムジャケットの画像や歌詞など"おまけ"の提供に力を入れるはずだ。

 再生機器を増やすための取り組みも始まっている。先週には、ヤフーが「Yahoo! ミュージック」でiTunes Storeとの連携をスタートさせ、従来はATRAC3に限定されていた品揃えにiTunes StoreのDRMフリーなAACが加わった。iPodでもウォークマンでも聴けるため、かなりの集客効果が見込まれる。

 しかし、DRMフリーと再生機器増加の取り組みが行き着く先は、「コーデック選択の自由」だと筆者は考える。実際、ロシアの楽曲販売サイトAllofMP3(著作権問題により閉鎖される見込み)では、購入時にMP3やAAC、WMAなどのコーデックをユーザーが選び、自由にエンコード方式(CBR/VBR)やビットレートを決定できる。DRMという足かせが消えつつある現在、このようなオンラインストアが増えても不思議ではないはずだ。

関連キーワード

Apple | DRM | iPod | iTunes


執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)

ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。


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