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キヤノン、デジタルビデオカメラに関する技術セミナー高画質生み出す5つの要素

» 2007年06月28日 22時39分 公開
[山田祐介,ITmedia]

 キヤノンは6月28日、デジタルビデオカメラに関するマスコミ向け技術セミナー「美しい映像表現を可能にするキヤノンのデジタルビデオカメラ技術」を開催した。講師として同社のDCP第二開発センター副所長の平沢方秀氏が登壇し、同社製ビデオカメラの高画質を実現する5つの要素「レンズ」「フルHD CMOS」「カメラ信号処理LSI」「オートフォーカス・手ブレ補正」「レコーダー信号処理LSI」に関する技術を説明した。

photo 「5つの要素をすべて内製化することで、業界No.1の高画質を目指す」(平沢氏)

レンズ

photo 通常のNDフィルターとグラデーションNDフィルターの比較

 レンズの性能を高めるためには「解像度の高さ」「歪みの小ささ」「色にじみの少なさ」「ヌケのよさ(フレアやゴーストなどの少なさ)」が求められると平沢氏は話し、ゆがみの発生に関わる回折現象について説明した。「人間の瞳孔と同じように、被写体が明るければ明るいほどレンズの絞りは小さくなるが、それに比例してレンズを通る光は拡散する。これは回折と呼ばれるもので、この影響を受けると映像はピンボケしたようになる」。

 レンズの絞りを小さくせずに明るい環境で撮影をするためには、サングラスのように光の明るさを抑えるNDフィルターを用いる方法があるが、フィルターが半掛かりの状態ではフィルターの境目とレンズ絞りとの間に新たな回折が発生する問題があった。この問題を解決するためにキヤノンでは「グラデーションNDフィルター」を独自に採用。フィルターの色濃度をグラデーションすることで明確な境目をなくし、回折を抑えている。

フルHD CMOS

 光を電子信号に変換するCMOSセンサーに関して、同氏はまず同様の役割を果たすCCDとの違いについて説明を始めた。一般的なCMOSセンサーでは、ひとつひとつの画像素子が電気信号に変換する回路を持っている。対して一般的CCDは個々の画像素子が受け取った光エネルギーの電荷を「バケツリレー」のように変換回路に集めて変換する。

photo CMOSセンサーとCCDの変換フロー

 それぞれの画像素子が変換回路を持つCMOSセンサーはCCDにくらべ受光部面積が狭く感度の面で不利なほか、それぞれの変換回路の個体差によるノイズが発生する。しかしその一方で高速化や消費電力の面で優位なため、同社は「オンチップノイズ除去回路」を開発した。画像情報を読み出す前にノイズのみを計測し、その後画像を読み出した際にノイズを「引き算」することで、高画質を実現するという。

 また、キヤノンのフルHD-CMOSセンサーはG(緑)/B(青)/R(赤)の光を受け取る3種の画素がバランスよく配置された「ベイヤー配列」を採用している。「他社のCMOSではエネルギーの高い緑色を取り込む画素を多くすることで解像度を高めているものもあるが、フェンスなど細かい部分では虹のような偽色が発生する」。

カメラ信号処理LSI

 センサーが変換した電気信号を処理することで「画づくり」を行うのがカメラ信号処理LSI。「動画と静止画、両方の高画質を追い求める」キヤノンの「DIGIC DV」は、それぞれに適した信号処理を選択する。最新の「DIGIC DV II」では、画像処理速度を従来の2倍にまで高めたと同氏は言う。また、業務用やら民生用まで共通のプラットホームを使用することで、技術の汎用性を高めた。

オートフォーカス・手ブレ補正

 一般的なオートフォーカスの仕組みはコンストラストを検知し、高いコントラストを得られる方にフォーカスレンズを前後移動させるが、「画質の高いハイビジョン映像だと、オートフォーカスが過敏に反応してしまい、映像が“フワフワ”してしまう」課題があるという。フォーカス移動量を微細化することで改善がはかれるものの、今度はピントが合うまでの所要時間が増えてしまう問題が発生するとし、キヤノンが採用する「ハイスピードAF」の解説を行った。

 ハイスピードAFでは、まず三点測量の原理で被写体との距離を測定する「外測センサー」で「自信を持って一気にフォーカシング」した後、通常のオートフォーカス機能でジャストピントを探し出す。これにより素早いオートフォーカスと安定したピントを得ることができるとした。

 手ブレ補正に関しては、まず光学式と電子式の違いについて説明。光学式では専用の補正レンズが検出した手ブレを打ち消す方向に動くことで、画像のブレを抑えるのに対し、電子式では画像素子センサーが切り出す画像位置を手ブレ方向に応じて変更し、ブレを抑えているとした。

 キヤノンが採用する光学式においては、ジャイロ式とベクトル式とを使い分ける「スーパーレンジOIS」を採用する。角速度をはかるジャイロセンサーを利用するジャイロ式は、手や車の細かなゆれ(高周波)に有効。対して、1フレーム前の映像との比較から手ブレを検出するベクトル式は比較的緩やかな振動検出に向いているという。

レコーダー信号処理LSI

 撮影時に画像情報を圧縮し、再生時には圧縮情報を伸張する役割をもつレコーダー信号処理LSI。「ハイビジョン動画の場合、生の情報量ではDVDに20秒ほどしか撮影できない」と、圧縮技術の必要性を示し、その仕組みについて解説した。

 まず1つの画像を代表として記録し、次からの画像は代表画像との差分のみを記録することでデータ量を減らすのが、代表的な圧縮方法であると同氏は話す。キヤノンのシステムは、カメラ事業で培ったノウハウを投入した独自の圧縮アルゴリズムで高画質を実現しているとし、カメラの特性や人間の視覚特性を考慮した圧縮を施していると話した。また、コーデックなどのチップ類を1つのLSIに統合することで、小型化や低コスト、低消費電力を実現したと語った。

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