コラム
2007年07月09日 10時20分 更新

小寺信良:

次世代DVDが起爆しない5つの理由 (1/3)

鳴り物入りで登場した感のあるBlu-ray Disc/HD DVDの次世代DVDだが、市場を見渡してみるとお世辞にも普及したとは言えない状況だ。その理由について考えてみた。
小寺信良
photo HD DVDレコーダー「VARDIA RD-A600」

 もう先月のことになるが、東芝が新しいHD DVDレコーダー「VARDIA RD-A600/300」を発表した。もう店頭にも並んでいるはずなので、現物をご覧になった方も多いことだろう。

 この発表会の時に、東芝デジタルメディアネットワーク社の藤井美英社長がプレーヤーのシェアを聞かれ、ヨーロッパでは「勝ったとは言わないが圧勝」とおっしゃったが、これがずーっと気になっていた。「勝った」と「圧勝」の間にどんなレベル差があるのか考えてみたのだが、いまだによくわからない。

 米国やヨーロッパの事情は、日本にいてはなかなかわからない。それらは数字としてもたらされるだけで、実際に見たり聞いたりした感触というか、手応えがないのだ。そもそも米国でHD DVDがシェアを伸ばしたのは、プレーヤー本体に5本もタイトルをバンドルしたからだという説もあるし、先日スペインのサラゴサという街に行ったが、デパートや量販店を覗いてもHD DVDはもちろん、Blu-ray Discも見かけなかった。

 ここはスペイン第5の都市であるという。日本で言えば、名古屋とか札幌クラスである。例えば日本で「好調ですよー」というものが、名古屋・札幌のような大都市で見たこともないということが、あり得るだろうか。

photo 2006年10月に発表されたソニーのBlu-ray Discレコーダー「BDZ-V9」

 日本にいても、実感として好調という感じはしない。HD DVDの初号機はちょっと高かったので、そうそう売れるものではないということはわかっているが、それより前に登場しているBlu-ray Discレコーダーも、それほどヒットしている話を聞かない。モノとしては悪くないはずなのに、なぜ起爆しないのだろうか。

アーリアダブターの不在

 まず第1の理由として、アーリーアダプター層が存在しないということが大きいのではないか。モノが普及すると言うことは、まず最新のテクノロジーに飛びつく少数のイノベーター層があり、そこに刺激されて消費者のリーダーであるアーリーアダプター層に波及する。

 米国の社会学者、エベレット・M・ロジャーズが最も重要視したのが、このアーリーアダプター層の存在である。ではDVDの普及時において、このアーリーアダプター層はどういう人たちだったのか。それは、PCユーザーだったのではないかと思う。

 DVDがはやり始めた2001〜02年あたりの頃は、まずPC用のドライブが売れに売れ、うんちく書籍も沢山発行された。ベアドライブが手に入らなかった頃は、当時唯一標準搭載だったPowerMac G4を買って店先でDVDドライブを外し、残りの本体を目の前のソフマップに売ったというアキバ伝説も残っている。それぐらいPCユーザーのDVD熱というのは、熱かったのだ。

 なぜそれほどまでにPCユーザーがDVDを熱望したかというと、もちろんCD-Rを超える技術的な興味もあったはずだが、プログラムやデータの保存、HDDのバックアップを考えた場合、もはやCD-Rでは容量不足だったのである。例えばOSの起動ディスクイメージを作ろうと思っても、Windows系はもはやCD-Rには入らない容量にまで肥大していた。そこで4.7Gバイトという容量が、すっぽりハマったわけである。

 この点で次世代DVDを見直してみると、15GBから50GBといった容量のリムーバブルメディアを、映像記録以外で何に使うのか、という問題で答えに行き詰まる。CD-R時代にあった不足感が、今はないのである。またHDDの大容量化・低価格化もそれに拍車をかける。HDDのバックアップがHDD、ということが価格的にも可能になった今、この用途に次世代DVDは必要ないのだ。

使い道が少ない

 第2の理由としては、もっとも柔軟なはずのPCソリューションの中において、メディアとしての使い道が少ないということが上げられる。かつてDVDが流行った頃は、もちろんデータバックアップだけでなく、DVD-Videoが作れるということも重要な要素だった。つまり既製品と同じモノが作れるという考え方が、CD-Rからの延長として継承されたわけである。

 それにはまず前提として、最初にROMメディア、すなわち音楽CDであったり市販DVDビデオであったりといったものが先に存在し、定着していなければならない。それまではただ単に買うだけしかできなかったものが自分で作れるという魔力の影響力は、その状態でなければうまく機能しないのである。

 なぜならばPCとは常に、市販レベルのものが自分で作れるというソリューションを無視できない存在だからである。町のパソコン教室に行けば、Wordを使って町内会の案内を作ったり、年賀状を作ったりしている。それらは遊びと言えば遊びだが、PCを使うモチベーションとは、市販品、工業製品のようなものを自分で作る喜びに、常に支えられているのだ。

 その視点で次世代DVDを振り返ってみると、今回は市販ROMメディアと記録メディアを同時に立ち上げようとしている点が大きく違っている。「あこがれの市販品」がなければ、それと同じモノを作りたいとは思わない。ましてやPCでデジタル放送を録画し、次世代DVDに焼くというソリューションが提供されない今、PC用ドライブは使い道がないのである。

 米国ではプレーヤー、日本ではレコーダという読みは、かつてレコーダが売れた結果としては正しいかもしれない。だが日本だってCDの普及はもちろんプレーヤーの値段が下がったからだし、DVDの普及はPS2が売れたからだ。まずはハードウェアの価格障壁を下げて、市販コンテンツが売れるという状況を作る必要がある。

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[小寺信良,ITmedia]

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