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日産に聞いた“燃料電池車”の実力と課題(1/2 ページ)

» 2007年07月25日 11時04分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
photo 日産「X-TRAIL FCV」(2005年モデル)

 燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)は、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させ、電気エネルギーを得る自動車だ。従来のガソリンエンジンに比べてエネルギー効率が高く、排出するのは水だけ。またモーター駆動のため音が静かで、“究極のエコカー”との呼び声も高い。

 しかし、既に市販されているハイブリッドカーや電気自動車に比べると、まだまだ“未来のクルマ”というイメージが強いのも事実だ。では、FCVの実用化について自動車メーカーはどのようなロードマップを持っているのか。日産自動車技術開発本部FCV開発部FCV・EV車両開発グループ主担の山梨文徳氏に話を聞いた。


――自動車メーカー各社がFCVを発表していますが、日産「X-TRAIL FCV」の特徴はどこにあるのでしょうか

 FCVは電気モーターで駆動するものですから、あまり違いはありません。公称スペックを見る限り、各社のFCVは“横並び”と言っていい状況だと思います。

 ただ、日産の場合は実用性の検証を数多く行っていますから、信頼性は高い。国内では日産の拠点に近い日光や箱根、宇都宮周辺を日常的に走っていますし、海外でも米国のパームスプリングスやデスバレー、カナダのバンクーバーなど各地で実験を行い、気温が0度から50度超の環境でも実用上の問題がないことを立証しています。

 東京・東銀座の日産本社ギャラリーでは、月に2回の「FCV体験試乗会」を実施しています。他社でも子どもたちを乗せる試乗会などは行っていますが、一般の方が実際に運転(要普通免許)できるのは日産のFCVだけです(→試乗リポート)。

――現在の「X-TRAIL FCV」は2005年に発表したものですが、それまでのFCVとは大きく変化しました。燃料電池スタックをはじめ内製の比率がずいぶん上がっていますが、理由を教えてください

photo 日産自動車技術開発本部FCV開発部FCV・EV車両開発グループ主担の山梨文徳氏

 たとえば燃料電池スタックは米UTC Fuel Cellsのスタックを使用していましたが、買ってきたものでは使用範囲がある程度決まってしまいます。自社開発であれば、「この地域向けの車両は、この範囲で使いたい」などと柔軟に変更できますし、進歩も早い。このため、2005年モデルでは燃料電池スタックからリチウムイオン2次電池、モーターなどをすべて内製しました。

 その結果、燃料電池スタックは同一の出力(90kW)でサイズを40%、質量を50%削減することができました。触媒の材質改良により、スタックを薄くすることができ、劣化の少ない材質によって耐久性は2倍以上になっています。クルマのスペックは、トルクが280N/mと3リッターカー並みで、最高時速は150キロになります。馬力では120馬力程度でしょう。

――トルクと比較すると最高時速がモノ足りない印象も受けますが

 それは変速ギアを持たないためです。変速ギアを搭載すると、車体が重くなり、またコストも上がってしまいますから。

photophoto 出典は日産自動車

 われわれは2005年モデルの発表後も、より耐久性のある部品に変えるなどの変更を随時加えています。日産がリース(現在は横浜市の公用車や神奈川都市交通のハイヤーとしてリース中)やイベントに積極的な理由は、信頼性に自信があり、それをさらに向上させるためです。

 8月20日から軽井沢で行われるクラシック音楽祭「軽井沢八月祭」に協賛したのも同じ理由です。通常、イベントに持っていく車両は1〜2台ですが、今回は4台が現地に行きます。FCVであれば、会場までアーティストが乗ってきても非常に静粛ですから、クラシック音楽のイベントにこれ以上ふさわしいものはないと考えています(別記事を参照)。

――昨年、FCVは高圧水素容器(燃料タンク)などによって“ガソリン車と同等の航続距離を実現”したことが話題になりました。「X-TRAIL FCV」にも70MPa(700気圧)タンクの搭載が発表されていますが、現在のリース車両やイベント参加車両には、この新しいタンクが採用されているのですか?

 「X-TRAIL FCV」2005年モデルには、35MPa(350気圧)と70MPaの2種類があり、航続距離は35MPaの370キロメートルに対して、70MPsでは500キロメートル以上に延びました。ただ、ナンバーを取得して公道を走っている車両は、すべて従来の35MPaタンクを搭載したものです。

――それは、なぜでしょう?

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