　81年にブロードウェイで誕生したミュージカル「ドリームガールズ」。これまでにも何度かも映画化の話が何度か持ち上がったが、かつてのミュージカル映画の不振などでなかなか実現しなかった。しかし、ロブ・マーシャル監督の「シカゴ」（02）の大成功で、再びミュージカル映画が脚光を浴びるようになり、「プロデューサーズ」「レント」などの作品が製作されてきた。

　「シカゴ」で脚本を担当したビル・コンドンはもともと映画監督としてキャリアを築いてきた人物で、「ドリームガールズ」映画化への構想も抱いていた。「シカゴ」の成功と彼のビジョンが、映画化を拒んできた舞台版スタッフの気持ちを揺り動かし、映画化実現の運びとなったのだ。

現代ミュージカルの到達点！キャストも充実

　キャストには最高の布陣が揃えられた。業界を取り仕切ることになる主人公のカーティスに「Ray/レイ」でオスカー受賞のジェイミー・フォックス。一世を風靡したスター、ジェームスには実際に浮き沈みを経験してきたエディ・マーフィ。

　そして「ザ・ドリームズ」でリードボーカルとなる歌姫にはビヨンセ・ノウルズ。これまで添え物扱いされてきた彼女にとっては初めて本格的な演技が要求されたが、見事期待に応えている。スタッフの予想を遥かに上回る熱演を見せたのが最高の“歌声”を持つエフィ役を完璧にこなしたジェニファー・ハドソンだ。全米の人気番組「アメリカン・アイドル」で準優勝を果たした彼女は、本作で名だたるスターと共演してもまったく臆することなく、見事オスカー助演女優賞を受賞した。今後が最も期待される正真正銘の実力を持った人物だ。それはこの映画を見れば誰もが納得するはずだ。

　オスカーの話が出たので受賞関係にも触れておこう。ゴールデングローブ賞では作品賞を受賞し、オスカーでのノミネートは助演男優・女優賞のほか、歌曲賞や衣裳デザイン、美術、音響の各部門で8つにものぼった。しかし、オスカーでの受賞はジェニファー・ハドソンの助演女優賞のみ。誰もが意外に思ったのが、歌曲賞で受賞を逃したこと。

　賞は同じパラマウント作品の「不都合な真実」が射止めたのだが、これはどう見ても票が分散してしまった結果だろう。ノミネートが1曲だけなら間違いなく受賞していたはずだが、3曲ノミネートされたために起こってしまった予想外の出来事だった。

　また長年この業界で活躍してきたエディ・マーフィの好演も光っていただけに彼にも受賞してもらいたかったのだが、残念な結果に終わった。しかし、オスカーレースを賑わすだけの力作であることは断言できるので、劇場で未見の方は一刻も早く本作をチェックしてもらいたい。

HD DVDならではの細部表現を堪能

　物語は62年のデトロイトから始まる。スターとしての成功を夢見る3人の女性がやはり業界での成功を目論む中古車販売の男と出会い、当代のスター、ジェームスを利用し、女性グループとして成功を収めるというものだ。ビル・コンドン監督の演出はありきたりなミュージカル映画と違って、ストーリーを進めることに注意が払われ、驚くほど展開が早い。そのため2時間10分という上映時間はその2／3程度にしか感じられない。

　劇中流れる歌はどれもが素晴らしく、映画で描かれるショーもまるでその場にいるかのような興奮を味わわせてくれる。またオスカーにノミネートされた衣裳や美術の出来もすこぶる良く、劇場ではそれほど意識していなかったかもしれないディテールを楽しむという点でも、高画質のHD DVDでの視聴は欠かすことができないものだ。

　圧縮方式はVC-1。最近はMPEG-4 AVCの画質が話題になってきて、VC-1やMPEG-2は一段落ちるものと見られがちだが、本作の画質を不満に感じるユーザーはほとんどいないはずだ。舞台のきらめきや、質感に徹底してこだわった衣裳など、細部表現はほぼ完璧。黒人の滑らかな肌の質感もつぶれることなく、ビヨンセなどは思わず触れてしまいたくなるほど美しく感じることができた。