AV家電やPCで大容量記憶装置といえば、まず思い浮かぶのがHDD。PCにおいて最近主流となりつつある接続方式「SATA II」は、転送速度が最大3Gbpsと高速なうえ、500Gバイト超の大容量製品が1万円台から入手できる。コストパフォーマンスだけで判断すれば、HDDのポジションは当面揺るがないだろう。
しかし、HDDにも短所はある。回転機構を備えるため、衝撃や振動に弱いこと。大容量化/高速化した反面、発熱量が増えて放熱対策が必須になったこと。小型軽量化が大命題のノートPCでは、2.5インチモデルで100グラム前後あるHDDの存在が、設計の自由度を引き下げている節も否めない。
そのような背景から、近頃では“シリコンディスク”こと「Solid State Disk」(SSD)が注目されている。フラッシュメモリを記憶媒体として使うこの製品、インタフェースはSATA IIなどPC汎用のものを備え、HDDの代替品として利用できる。回転機構は必要とせず、衝撃や振動にも強い。
特筆すべきはシークタイムの速さ。たとえば、米SanDiskが今年1月に発売した「SSD UATA 5000」は、接続方式はUltra ATA/100、連続したデータの読み取り速度は62Mバイト/秒だが、512バイトのデータを1秒あたり7000回読み書きできる。この不連続なデータを読み書き(ランダムアクセス)する速度は、一般的なHDDの約100倍と圧倒的だ。
HDDに比べ、消費電力が少ないこともSSDの特徴。前述のSSD UATA 5000は、一般的なHDDがアクティブ時に1.0ワット必要とするところ、半分以下の0.4ワットで済むという。
SSDの採用は、すでにノートPCの分野で始まりつつある。6月発売の「東芝 dynabook SS RX1/T9A」は、64GバイトのSSDを標準装備。7月発売の「Dell Latitude D430」は、オンライン購入時にSSDの選択が可能になった。韓国のSamsung Electronicsなど、SSD市場に積極方針で臨むメーカーも現れ始めた。
調査会社の米IDCは、2011年におけるSSDの年間総販売額は54億米ドルに達するとのリポートを発表している。容量の点ではHDDに見劣りするSSDだが、耐障害性や低消費電力という特徴を生かし、今後もノートPCを中心にシェアを伸ばして行くはずだ。
SSDのデジタル家電への影響だが、前述したような特徴を持つとはいえ、容量やコストの問題もあり、即座にビデオカメラや家庭用レコーダーのHDDが置き換えられるとは考えにくい。ただ、SSDの普及によりフラッシュメモリが大増産され製造コストが低下ということになれば、ポータブルオーディオなど耐衝撃性が重要なデバイスのHDD離れはさらに進むことだろう。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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