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れこめんどDVD:「ラスト・キング・オブ・スコットランド <特別編>」DVDレビュー(1/2 ページ)

» 2007年10月12日 10時33分 公開
[皆川ちか,ITmedia]

 “人食い大統領”と呼ばれたウガンダの独裁者アミンを描く、スリラーあり、社会派要素あり、残酷描写ありの異色伝記ドラマ。しかしゲテモノ系にあらず。フォレスト・ウィテカーがオスカーを獲った、れっきとしたアカデミー賞作品なのだ。「食人大統領アミン」がトラウマになった方、こちらのアミンはいかがでしょう?

「ラスト・キング・オブ・スコットランド <特別編>」

発売日:2007年10月5日
価格:3990円
発売元:20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
上映時間:123分(本編)
製作年度:2006年
画面サイズ:シネマスコープサイズ・スクイーズ
音声(1):ドルビーデジタル/5.1chサラウンド/英語
音声(2):ドルビーデジタル/5.1chサラウンド/日本語
音声(3)音声解説

 イディ・アミンは、ネルソン・マンデラ登場以前に、世界でもっとも有名なアフリカ人だった。

 ヘビー級のボクシング・チャンピオンにして、イギリス赴任経験もある叩き上げの軍人。独立間もないウガンダでクーデターを起こし、首相を追放して自ら大統領に就任。経済改革や選挙法の改正を表明し、国民から圧倒的な支持を受けた。国際世評も、ウガンダの新しいリーダー、アミンに好意的な反応を示した。

 しかし、アミンは大統領になって最初の1年間で、元ウガンダ軍の軍人の3分の2を暗殺・処刑した。また、国内に住む5万人ものアジア人を追放し、ウガンダを「黒人の国」にすると宣言した。アミンの政策に反対する者たちは、知識人や警官、一般市民、政府の大臣にいたるまで、すべて粛清された。

 アミンは、自分の妻すら残酷な方法で殺した。恋人の子を身ごもった第二夫人は手足を切断され、死体は彼女の恋人の車のトランクから発見された。その恋人は毒殺された。

 反アミン派がクーデターを起こし、1979年にサウジアラビアへ亡命するまで、国内の約30万人がアミンによって殺された。アミンの恐怖政治は世界中から非難され、アミン自身は“野蛮なアフリカ人”のステレオタイプとして戯画化された。

 「食人大統領アミン」(1981)というものすごいタイトルの実録映画で、アミンは映画界にも名を刻んだ。岡村孝子の“あみん”も、大本をたどれば元ネタはこのアミンにいきつく。

 「ラスト・キング・オブ・スコットランド」は、イディ・アミンに仕えた青年医師の目からとらえた独裁者の肖像だ。

 1971年。スコットランドの医大を卒業したニコラスは、冒険を求めてウガンダの小さな村の診療所で働くことを決意する。クーデターによって前政権が倒され、新しい大統領=イディ・アミンが生まれたばかりのウガンダは、熱気にあふれていた。

 演説会の帰り、事故でケガをしたアミンを治療したニコラスは、スコットランドびいきのアミンに気に入られ、主治医にと乞われる。カリスマにあふれ、何人も妻をもち精力的でありながら、子どものように無邪気な面もあるアミン。その強烈なキャラクターにニコラスは魅了され、公私ともに親しくなる。

 しかし、あるときを境にアミンは粛清を開始し、ニコラスは彼の恐ろしさを目の当たりにする。

鶴瓶似のフォレスト・ウィテカーがオスカー受賞

 アミンを演じるのは、笑福亭鶴瓶似の俳優フォレスト・ウィテカー(「スモーク」で義手の男を、「ゴースト・ドッグ」では侍の心をもつ殺し屋に扮した)で、本作で見事アカデミー賞主演男優賞を受賞した。丸い体型に加え、人の好さがにじみ出る顔つきのためかハリウッド映画では“いいひと”を演じることの多いウィテカーが、魅惑的で残酷な独裁者を迫力たっぷりに演じている。

 インタビュー映像によると、ウィテカーはアミンを演じるため撮影前にまずウガンダへ行き、母国語であるスワヒリ語を聞き覚え、アミンを知る人々から話を聞いたという。そして、アミンに対して愛憎相反する感情を抱く人が多いことに気づき、アミン像が変化していった。

 「最初はアミンを愚かな独裁者と思っていたけど、彼への思い出を聞いたり、昔の映像を見たりしているうちに、考えは変わっていった。アミンはチャーミングな男だった。そして、よく言われるように狂人でもなかった。努力家で、貧困から這い上がり、学校や病院をたくさん建設した。ウガンダをより良い国にしようと理想に燃えていた。その一方で、虐殺や拷問を行っていた。その矛盾した性質を捉えたかった」

 ウィテカーにとって、これほど演じるのが苦しかった役は初めてだという。撮影終了後の打ち上げで、監督はウィテカーから「ようやくアミンから抜け出せる」と打ち明けられたと語る。

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