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「ダビング10」はコピーワンスの緩和か対談:小寺信良×椎名和夫(1)(1/4 ページ)

» 2007年11月06日 10時53分 公開
[津田大介,ITmedia]

 デジタル放送に用いられている著作権管理機能「コピーワンス」。実質的に複製が不可能でバックアップすら作成できず、HDD/DVDレコーダーでHDDに録画した番組をDVDへ保存する際、書き込みに失敗すると録画内容が永久に失われるなど使い勝手の悪さは既に広く知られたところだが、その状況に変化が表れた。

 総務省情報通信審議会で提案された、複製回数を最大9回(COG:Copy One Generation+コピー9回)とする新たな運用ルールがJEITAによって「ダビング10」と呼称されることになり、対応機器も早ければ年内に登場する可能性が浮上している。

 新ルールが適用されれば「コピーが1回」という当面の不便さからは開放されるものの、「コピーワンスの不便さ」を解消したいという観点からすれば、単純にコピーワンスのディスクが複数枚作れるだけで根本的な解決策になっていないという指摘もある。デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏も「極論すればコピーワンスのディスクが10枚できるだけ。ガッカリ感も10倍」とCEATEC JAPANのトークセッションで感想を述べている(→「コピー10」、7つの問題点)。

 では、なぜダビング10になったのか? そもそもコピーワンスはどのような経緯で導入されたのか? 一般ユーザーからすれば“気が付いたらそうなっていた”という印象の強いデジタル放送の著作権管理について、本誌コラムでもお馴染みの小寺信良氏と文化審議会著作権分科会 私的録音録画小委員会の委員も務める日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏が激論を交わす。司会は同じく私的録音録画小委員会の委員でIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏が務める。

対談:小寺信良×椎名和夫(2):「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか

対談:小寺信良×椎名和夫(最終回):ダビング10の向こうに光は見えるのか

photo 左から日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏、映像系エンジニア/アナリストの小寺信良氏

EPNで行くはずだったのでは?

――本日は満を持してこの問題の宿敵(笑)対決が実現するということで僕もちょっと興奮しているんですが、よろしくお願いします。

小寺氏: 宿敵って(笑)

椎名氏: 多勢に無勢なんで、ひとつお手柔らかにお願いします(笑)

――今回のこの対談、僕の企画発案でやらせていただいたわけですが、なぜこのような対談を企画したかというと、ここ1年くらいずっと地上デジタル放送のコピー防止策(コピーワンス)をどう緩和するか、総務省の情報通信委員会内の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(以下「デジコン委員会」)で議論していたわけですが、どうやらこの問題、「コピーナイン」(※JEITAは10月9日、「ダビング10」という呼び方に統一することを発表した)で決着しそうな雰囲気が漂ってきたということがあります(編注:対談は9月末に行われた)。

 でも、エンドユーザーから見たら、そもそもデジタル放送のコピー防止策はあっちへ行ったり、こっちへ行ったりでよく分からないってのが正直なところなんですよ。とはいえ、誰もが「コピーワンスは不便だ。ありえない」ということは感じていたわけで、この問題をどう決着付けるのか注目していたら、なんかある種玉虫色の結論として「コピーナイン」が出てきた。でも、僕からしたら「これって後退じゃん?」って部分があるんですよ。

小寺氏: そもそも総務省が去年の8月に出した第3次中間答申では、「地デジのコピーガードは現行のコピーワンスではなくて、EPNの運用で行くのが望ましい」というような書き方になっていたわけですからね。

――そうなんですよ。少なくとも昨年8月時点では「コピーワンスを緩和させよう」という総務省の明確な意思が感じられたんです。しかし、フタを開けてみたら実際の議論は年明けくらいから「EPNで行こうよ」という流れがどんどん変わってきて、「おやおや? どうなってるのこれ?」って感じになってるうちに、結局今年7月にCOG+9回コピー……つまり、コピーナイン(ダビング10)という形になってしまいました。

 ユーザーからすると「何でこうなっちゃったの?」ってのが素直な感想で、断片的な報道だけ見ていてもよく分からない。コピーナインは決定事項なのか、それとも今後さらにここから議論を積み上げていって、結論が変わる可能性があるのか。そのあたりの経緯をここ1〜2年この問題に総務省の委員として議論に参加されてきた椎名さんからお聞きしたいなと。

コピーワンスの導入過程

椎名氏: はい。これは本当に複雑な経緯で、話すと長くなっちゃうんで、7月12日に行われた権利者団体の合同記者会見や、そのときに配布した資料(※リンク先PDF)を見ていただければ理解が深まると思うんですが、確かに昨年8月1日に出た総務省の第3次中間答申では「現在デジタル放送のすべての放送番組はコピーワンジェネレーションの取り扱いとなっているが、これらをEPNの取り扱いとして行く方向で検討し、本年12月まで可能な限り早期にその検討状況を公表すること」ということが書かれています。

photo 椎名氏

 でも、これはいきなり総務省がこういう答申を出したわけじゃなくて、あとで説明しますけど、「緩和をするならEPNしかあり得ない」と思わせるような技術的な説明を、ずっとメーカーサイドから受けてきたからなんですね。

 実はこの中間答申が出てくる前、僕とか主婦連合会の河村(真紀子)さんは、デジコン委員会の前身になる村井純先生の委員会に呼ばれてコピーワンスの改善について意見を求められたりしていたんですよ。その後、中間答申が出て本格的にこのコピーワンス問題を議論しようという話になり、デジコン委員会が組織されたわけですが、そういう流れの中で一貫して言われていたことがあるんです。

 それは、誰がコピーワンスという「コピー水準」を決めたのかということ。放送事業者さんはずーっと「権利者団体の権利主張が厳しいのでコピーワンスにせざるを得なかった」というように主張していて、消費者団体の方々も「権利者がうるさいからコピーワンスが導入された」という説明を受けてきたんです。でも実際はコピーワンスというルールを決めたとき、権利者は実質的に何の関与もしてないんですよ。

 よくよく話を聞いてみると、D-pa(当時は地上デジタルテレビ放送推進協会。2007年4月1日をもってBSデジタル放送推進協会と統合し、デジタル放送推進協会となった)のような地デジの技術的な部分を管理するところと、機器メーカーの団体であるJEITA(電子情報技術産業協会)が、最初のきっかけを作ったみたいなんですね。

 きっかけはTBSの番組をデジタル録画したものがネットオークションで売られていて、「それはまずいだろう」ということでJEITAがD-paに対してコピーワンスを提案したんだとか何とか。で、僕ら権利者からしてみたら、そんな話は一切聞いてないし、実際問題としてコピーワンスが導入されたプロセスには関与していないわけです。それなのにいつの間にか「権利者たちがうるさいからコピーワンス導入された」みたいに悪者扱いされちゃってて、僕らも「そりゃおかしいだろう」と声を上げる必要があったと。

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