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コラム2007年11月19日 08時40分 更新
小寺信良:イマドキのテレビ、広色域技術の秘密 (3/3)日本だけ特別なルールもうひとつ最近筆者の研究テーマになっているのが、色温度の問題である。色温度とは、いわゆる100%の白の基準を何ケルビンに設定するかという話である。 PCモニタなどにも色温度の設定があるので、感覚的におわかりだろう。色温度を下げると、現象としては全体的に夕焼けの風景っぽく黄色くなり、色温度を上げると青白くなっていく。カメラのホワイトバランスも、まさにこの色温度設定だと言える。 多くの国際基準では、色温度の基準は6500k(ケルビン)となっており、これがもっとも自然昼光に近いということになっている。D65と表記されることがあるが、これはDayLight 6500kのことである。放送の基準でも、NTSC、PAL、BT.709などが軒並み6500Kだ。 だが実は日本だけが違っていて、慣習的に9300Kが標準となっている。 これには諸説ある。例えば日本では、照明のほとんどが蛍光灯だ。蛍光灯は電球と違って色温度が高いので、9300Kを白としたほうが馴染みやすいのだ、というのが一般的な説明になるだろう。 また別の説によれば、日本という国は戦後、欧米からの影響を強く受けたために、肌のトーンが白人っぽくピンク色に表示されることを好む。そこで色温度を上げた方が、普通に撮影しても表示したときにピンク色になっていい感じだから、という説もある。これに関連した陰謀説としては、某化粧品会社が肌色を綺麗に出すために色温度を上げて撮影したのがそもそもの始まりで、以降その慣習が続いているという話もある。 そのほかにも、テレビメーカーが明るさ競争に突入したブラウン管時代に、色温度が高い方が明るく見えるため、競争でどんどん色温度が高くなっていった、という説もある。 たぶん真相は、ひとつではないのだろう。上記のようないろいろな事情が重なり合って、色温度を高くした方がいろいろメリットがあるということで、日本だけがどんどん国際標準から外れていった。 これは放送用マスターモニタも例外ではない。日本以外の国では6500Kがデフォルトだが、日本だけは9300Kがデフォルトで出荷されている。 さらに恐ろしいのは家庭用テレビだ。いわゆる「ダイナミックモード」では、12000Kを超えるテレビも少なくない。白色矮星じゃねえんだからそんなに高くてどーするんだよと思うのだが、それが現実である。 こうなってくると、もう正確な色味とかって話は消し飛んでしまう。海外で制作された映画などは、誰もちゃんとした色味で見ていないということなのである。たとえ放送のエンジニアであってもだ。 そしてこれからは逆もあり得る。日本がコンテンツ立国として多くの映像コンテンツを海外に輩出していく時に、現地では日本発のコンテンツが、過度に赤黄色のトーンで表示されることになるからだ。 それなら海外向けに出すときには、色温度を考えて調整すればいいという話もあるかもしれない。だが実際には誰も日本と国外の色温度が違うということを知らないというのが、日本の制作現場の現実である。それだけ日本の映像コンテンツというのは、国内消費だけで回ってきたのである。 そもそも最近のコンテンツ制作はどんどんPC上に移行している。クリエイターがしっかりモニタの色温度まで認識しているのは、印刷の色校が関係するDTPぐらいで、映像制作の現場ではよほど大手でシステマチックにやっているところ以外、ないだろう。ましてや個人のクリエイター/アーティストレベルに至っては、色温度の意味そのものを知らないケースも少なくないはずだ。 日本の色温度が規格で決まっているのであれば、国際標準に合わせるべく規格の見直しを行なえば、放送システムなどは一括で統一することは不可能ではない。だが実際にはこの色温度は、慣習で決まっているだけであり、ほとんど「好みの問題」なのである。だからこれを国際標準に戻すと言うことは、なかなか難しい。 その中で我々にできることは、テレビを見るときにコンテンツに応じて、色温度の設定を変えることである。例えば海外の映画を見るときは、なるべくモード設定を使って、6500Kで見るようにする。そしてもともと意図されたはずの色彩を、しっかり記憶していくことだ。 こうやって色に対しての正確な知識と体験を蓄積したのちに初めて、テレビの正確な色味の話もできるだろうし、広色域の話もまともな議論になっていくことだろう。 小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。 関連記事
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