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人と共存するための機能“全部入り”――汎用ロボット「TWENDY-ONE」

» 2007年11月27日 23時15分 公開
[山田祐介,ITmedia]

 早稲田大学の創造理工学部 総合研究科 菅野重樹研究室は11月27日、“人間共存ロボット”「TWENDY-ONE」(トゥウェンディ・ワン)を発表した。

photo TWENDY-ONE。開発のベースとなったロボット「Wendy」と21世紀(twenty-one)をかけ合わせた名前だ
photo 菅野重樹教授

 エンターテイメント性や二足歩行技術などが脚光を浴びやすいロボット業界だが、TWENDY-ONEは人と共存するために必要な機能を1つのボディに納めた“汎用性”が大きな特徴だ。繊細に物をつかめる4指ハンドや全方向移動が可能な車輪を搭載し、高齢者の介護や製造業の現場支援など、人間のさまざまな活動をサポートすることを目的としている。

 菅野教授は、人と共存するロボットには「安全性」や「作業の巧みさ」といった条件が求められると語る。1990年代の初め頃からこうした条件をテーマにしたロボットの研究を始め、1999年には繊細に動くハンドを備えた人間共存ロボット「Wendy」(ウェンディ)を開発、2000年からはWendyをベースに産学協同で研究をすすめ、約7年の年月を経てTWENDY-ONEが誕生した。


photo 研究所の“人間共存ロボット”開発の歴史。産学協同で開発したTWENDY-ONEは、従来むき出しだったコード類をすべてボディ内側に収納し、製品と呼べるレベルにまでデザインが洗練されている。複雑で高度なハンド部のコード類をコンパクトに内蔵することは技術的に難しいことだったと教授は語る

 TWENDY-ONEの大きな特徴は、まず腕部に“バネ”を利用した関節機構を備えていることが挙げられる。人や物に接触したとき、この“バネ”が電子的な制御では難しかしい柔軟な動きで衝撃を吸収することで、安全性を確保しながら故障を防止する。また手の甲や前腕、肘など人との接触が多い部分にはシリコンなどのクッション材を採用した。両腕の先で約22キログラム、前腕全体で約34キロ程度の支える力がある。また腕部全体に53点の「分布型圧力センサー」を配置し、人との接触を感知したり動きに追従することができる。この分布型圧力センサーは腕だけでなくボディ全体に配置されていて、さまざまな位置からの接触を感知できるようになっている。

photophotophoto 介護シーンを想定して行われたデモンストレーション。音声認識機能で相手の呼びかけに反応し、各動作を開始する。ベッドから車いすへの補助シーンでは、利用者の動きに追従しながらなめらかに補助していた
photo 人間の“持ち方”のほとんどを再現できるという4指ハンド

 人の手の機能や形態を模倣したという4指ハンドは、指先の「小型6軸力覚センサー」に加え、手のひらに241点の分布型圧力センサーを搭載し、持つ物の大きさや柔らかさを高精度に感知して安定した把持を可能にする。さらに“つかんだ物を手の中で持ち替える”といった高度な作業も可能だ。手のひらはクッション材に覆われ、指先には金属の“爪”がついている。圧力の分散する“肉”の部分と、圧力を集中できる“爪”の部分とを持つことが、人の手のような巧みな把持を可能にするという。


photophotophoto 視角センサーを使いキッチンまで自律的に移動し、トングでトーストをつかみ皿にのせる(左)。ストローを器用に持ち(中央)、持ち方を調節しながらコップの中に落とした(右)
photophotophoto ペットボトルを持つと、こまめに各指を調節しながら最適のポジションを探す。スタッフがペットボトルを“ぐいぐい”とさまざまな方向に動かすが、加えられた力の方向に腕を追従させて力を逃がし、ペットボトルを落とさない

 その他にも音声認識や、CCDカメラによる視覚的な空間認識、超音波センサーによる障害検知など、さまざまな機能を1つのボディに詰め込んでいるTWENDY-ONE。「世界的にもこれだけ人と共存するための機能を統合したロボットはない」と菅野教授は語る。2015年の製品化を目指しているが、すべての機能を製品版に詰め込むのはコストの点で難しいという。ほぼオリジナルの部品で構成されるTWENDY-ONEの開発費用は「“数億円”というレベルではない」と菅野教授は話す。「現段階はつめ込めるだけつめ込んだフルスペックの状態。これをスタートラインにして、必要な機能を取捨選択し、“高級車”レベルの1000〜2000万円といった価格にまでコストダウンしたい」(同氏)。

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