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5年後、放送には何が求められるのか小寺信良(1/3 ページ)

» 2008年02月04日 15時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 5年という歳月は、放送事業にとって長いだろうか、短いだろうか。今年2008年は、5年に一度の一斉放送免許更新の年にあたる。これを機に総務省では、電波法施行規則、放送普及基本計画、放送用周波数使用計画の一部変更を計画しているが、それに対するパブリックコメントの募集が始まっている。

 今回の免許更新で、アナログ放送停波と言われる2011年をまたぐことになる。放送事業者としては、単に漠然とデジタル放送推進尽力を約束するだけでは済まなくなった。特に今回の放送普及基本計画改正案(リンク先PDF)には、注目すべき点が多い。

 まず第一に、「テレビジョン放送については、デジタル放送以外の放送からデジタル放送に、平成23年7月24日までに全面移行をすること」という文面が盛り込まれている。さらにサイマル放送とアナログ停波についても、「デジタル放送以外の放送については、デジタル放送を行なう事業者が行ない、これらの放送は、平成23年7月24日までに終了すること」とされている。

 まあ放送を止める方は簡単だが、そのかわりに従来のアナログ放送のカバーエリアを、全部デジタル放送で置き換えなければならない。地方局にとっては、中継施設の新設や更新などが、いよいよ本格的に求められてくる。

 単純にデジタル化したからといって、視聴率や広告費が上がるわけでもない、むしろ下がるかもしれない地方局にとっては、ひたすらに重い重圧である。2011年のアナログ放送停波プランが発表された当初、地方局によっては吸収合併や統合などもあり得るのではないかという指摘もあった。あと数年で、そんな生々しい話も出てくるかもしれない。

制作プロセスが抱える歪み

 今回のパブリックコメントの対象として、「地上デジタルテレビジョン放送局の免許及び再免許方針(案)」という文章がある。要するにこれを満たさないと免許交付はないよ、というデッドラインだ。これも前回からの改正部分が多い。

 前回の方針では、サイマル放送比率(2/3以上)や、高精細度テレビジョン放送の比率(50%以上)が規定されていた。これはまだデジタル放送に完全に移行できない局の事情にあわせて、最低ラインを規定したものだ。しかし今回の方針案では、これらが削除されている。つまりこれらのハードルは、すでに達成されたということである。

 しかし、ハイビジョン放送比率を巡っては、過去に「ハイビジョン放送とは何か」という定義を巡って、腰砕け状態に後退したことがある。それは、「SD解像度で制作したものをハイビジョンサイズにアップコンバートしたものでもハイビジョン放送と見なす」というものであった。

 5年前の段階では、制作設備の面でとても50%のハイビジョン番組を調達するのが難しかったのはわかる。だがそれならば、単に比率を引き下げれば良かったのだ。ところがこの50%という数字に拘泥するあまり、ハイビジョン番組の定義そのものを引き下げてしまったために、いわゆる「なんちゃってハイビジョン」が横行し、消費者は混乱した。これは行政側が、いかにハイビジョン(高精細)という規格の本当の価値を理解できていなかったかを現わすものであろう。

 今回の方針案では、このグダグダの結果を是正すべく、新しい条件が加えられている。「特に、ハイビジョンカメラなどにより制作、編集された番組を放送する高精細度テレビジョン放送(以下「ピュアハイビジョン」という)又は一の周波数で複数の標準テレビジョン放送の放送番組(原文ママ)を同時に送るマルチ編成(以下「マルチ編成」という)をできるだけ多く実施すること」という一文があるのだ。

 「複数の標準テレビジョン放送の放送番組を同時に送る」とか一部何言ってんだかわかんないところもあるが、重要なのはその前部分で、ハイビジョン機材によって撮影、編集されたものを「ピュアハイビジョン」と定義し、アップコンバートは認めない方向性を打ち出した点は、消費者にとってはメリットがある。

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