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シャープ初のTHX認定液晶テレビで「レミーのおいしいレストラン」の驚愕画質を味わう山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.7(1/2 ページ)

» 2008年02月06日 12時00分 公開
[山本浩司,ITmedia]

 ぼくが初めてルーカスフィルムのスカイウォーカーランチを訪れたのは、ちょうどジョージ・ルーカス監督作の「ウィロー」が全米公開された時期、1988年の初夏のことだった。そうか、あれからもう20年が経つのか……。その後3 度ほど訪問を繰り返したが、今思い返してみても、スカイウォーカーランチの取材ほど、ぼくの編集者人生において印象深かったものはないかもしれないと思う。

 サンフランシスコ郊外の長閑な田園の中に、ログハウスを思わせる木をふんだんに使った5つのポストプロダクション部門のテックビル(技術棟)が並び立つ。ワイナリーもあれば野球場もあるそのランチの美しい風景とおいしい空気、働いているエンジニアたちの楽しげな雰囲気にまず心を奪われた。なるほど、ここが世界の映画青年たちが憧れる「夢の砦」=スカイウォーカーランチかと得心したのである。

 そして、当時最新鋭のレコーディング機材が揃えられたスプロケットシステムズ(現スカイウォーカーサウンド)のダビングシアター(ファイナルミックスを行なう映画館を模した巨大なスタジオ)で聴かせてもらった「あの音」を、20年経った今もぼくは忘れることができない。

 ノイズレベルを極限まで落したシアター空間に炸裂する爆音、かそけし衣擦れの音、俳優たちのナマナマしいダイアローグ、朗々と響きわたる雄渾なオーケストラの響き……。すべてがそれまで経験したことのない、素晴らしくハイフィデリティなモーション・ピクチャー・サウンドだった。この音こそAVファンが目指すべき究極のシアターサウンドだとそのとき確信したが、その思いは今も変わらない。

 ぼくをノックアウトしたこのダビングシアターの高音質プログラムこそが、当初考案されたTHXシステムであった。そして、その後始まったTHXの啓蒙活動は、当時スプロケットシステムズの音響顧問であったトムリンソン・ホルマンが設計したスクリーンスピーカー用クロスオーバーネットワークを含むダビングシアターの高音質プログラムを、世界中の映画館に広めようという、理想的なロマンチックな思いからスタートしたのだった。

 映画館用高音質プログラムであったTHXは、90年代に入って映画ソフトを再生するための家庭用AV機器のリファレンス「ホームTHX 」に発展する。サラウンドサウンドのデコードを司るAVアンプのレギュレーション設定や、LD、DVDの画質管理など、THXがAVのハイクォリティ化に果たした役割は決して小さくない。

 近年になってTHX は、家庭用ディスプレイの映画を観るための画質基準(THX Certified Display Program)や小規模スタジオ/ホームシアターのルームアコースティック基準などを提案し始めているが、ここに紹介するシャープの液晶テレビ「Tシリーズ」こそが、前者のTHX Certified Display Programの規格認定を受けた、日本初の家庭用ディスプレイなのである。

 シャープ初のTHX認定液晶テレビTシリーズは、65V型の「LV-65TH1」、52V型の「LV-52TH1」の大型機2モデルで構成される。暗所コントラスト3000:1を誇るAQUOSの最上位機種Rシリーズがそのベースになっているが、THX が要求するさまざまなスペックを満たすため、よりいっそう細かな造り込みと画質チューニングを経て完成に至った、たいへんな手間がかけられたプレミアム・モデルである。

photo 65V型の「LV-65TH1」と52V型の「LV-52TH1」。価格はLV-65TH1が141万7500円、LV-52TH1が84万円。いずれも受注生産

 まずTHXがシャープに要求したことは何か。それは、完全暗室で映画を観るにふさわしい画質をつくり込むこと、映画監督が意図する映像を家庭で忠実に再現することの2点であった。

 電圧をかけて液晶の向きを変えることで、バックライトから発せられた光を遮断したり通したりして映像を表示する液晶テレビは、漏れ光を完全になくすことはできず、暗室で観るとどうしても黒浮きが目立ってしまう、というのが従来の常識だった。しかしRシリーズが達成した「黒の黒らしさ」なら、完全暗室での映画再生にじゅうぶん応えられるというのが、スタート時のTHXの見解だったという。

 それから、THXとシャープ技術陣の間で、映画を観るためのテレビの画質の在り方について、さまざまなやりとりがあったようだが、その内容についてはつまびらかにされていない。THXからどのような画質に対するリクエストがあったのか、同社技術陣にしつこく質問して分かったのが、以下の3点だった。

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