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シャープ初のTHX認定液晶テレビで「レミーのおいしいレストラン」の驚愕画質を味わう山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.7(2/2 ページ)

» 2008年02月06日 12時00分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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THXがシャープに要求した3つのこと

 1つめは、画面全体のユニフォミティ(白の均一性)を完璧に維持すること。バックライトの光を拡散板を用いて画面全体を光らせる液晶テレビは、完璧になだらかな拡散を実現するのは難しく、どうしても色ムラ、輝度ムラが出てしまう。THXからは、従来の約10倍の測定ポイントで画面上のムラを検出する指示があり、シャープは拡散板の見直しを含めた、非常に手間のかかるきめ細かなつくり込みで、ユニフォミティの精度を上げていったという。

 2つめが、ローライトからハイライトに至るまで、全輝度領域で色温度6500ケルビンを完璧に維持することであった。以前本連載で述べたことがあるが、映画フィルムをビデオ信号に変換する過程(テレシネ)では、6500ケルビンに設定されたモニターディスプレイを用いて、制作者の意図に合わせて色補正が行なわれる。そう考えると、THXが全輝度領域で色温度6500ケルビンの実現を要求するのは、当たり前といえば当たり前の話かもしれない。

 しかし、6500ケルビンよりもはるかに高い色温度を持つ従来の冷陰極管を光源に使っているかぎり、液晶テレビで6500ケルビンを全輝度領域で完全維持するのはたいへん難しい。液晶テレビは、R(赤)G(緑)B(青)の電気的なレベル調整でホワイトバランスを合わせ込んでいくわけだが、元々の光源の色温度が高すぎては、ある輝度領域で過度の電気的な補正のしわ寄せがきてしまい、ホワイトバランスが合わせにくくなってしまうのである。

 そこで、シャープはバックライトの蛍光体の組成そのものを見直して、全輝度領域での6500ケルビンの維持ができるように、このモデル専用に光学系をリファインしていったのだった。こんなことがすぐできたのは、亀山の地に関連工場を含めてすべてのファシリティを構え、一気呵成にパネル製造を完了できる垂直統合型生産設備をシャープが持っていたからこそ、だろう。

 そして、THX のリクエストの3つめが、2.2乗標準ガンマカーブを完全トレースすることだった。映像表示素子はリニアな(直線的な)入出力特性を持つとは限らず、入力信号に対してノンリニアな出力特性を持つものがあり、このカーブをガンマカーブと呼ぶ。つい最近までディスプレイといえばブラウン管だったわけだが、この映像表示デバイスのガンマが2.2乗だったので、今なお収録カメラにそのカーブに対して逆補正をかけて映像を送信しているのである。リニアな入出力特性を持つ液晶テレビだからこそ、THXはその正確な再現にこだわったのである。

 しかし、この考え方にはとうぜん異論もあろう。例えばRシリーズの「映画」ポジションで設定されたガンマは、測定してみると、2.2乗をベースに微妙な変化が加えられている。これこそ画質エンジニアが、そのテレビのクセを勘案しながら、さまざまなソースを見て、感覚的にベストと思えるカーブを選んでいるわけである。ここに絵づくりの面白さ、味付けの愉しさがあるとぼくは思うが、THXは制作者の意図通りの映像を再現するために、画質エンジニアの恣意的な絵づくりを許さないという考え方を採るのである。

 さて、そんな思想でつくりこまれたTシリーズの52V型、LV-52TH1で部屋を暗くしてさまざまな映画作品を観てみたが、さすがにその再現性は素晴らしく、なるほどRシリーズとは違う、厳格に追い込まれた画質ならではの魅力があるなあと思った。なかでも、この画質はすごいと惚けたように見つめたのが、BD ROMの「レミーのおいしいレストラン」だった。

photo 「レミーのおいしいレストラン」。Blu-ray Discは本編のみの1枚組(4935円)。音声は英語リニアPCM5.1hサラウンド、英語ドルビーデジタル5.1chサラウンド、日本語リニアPCM5.1hサラウンド、日本語ドルビーデジタル5.1chサラウンドを収録。(C)Disney/Pixar.

 昨年末「ミシュランガイド東京2008」が発売され、あーでもないこーでもないと、グルメたちが喧しい時期があったが、「レミーのおいしいレストラン」は、味覚と嗅覚にとびきり優れたネズミのレミーが、料理ベタの見習いコックとコンビを組んで美味しい料理の数々をつくってパリっ子たちを驚かせていくというファンタジー作品である。「ファインディング・ニモ」「Mr.インクレディブル」等を手がけてきたディズニー/ピクサーが、長い時間をかけて作り上げたその映像の完成度の高さは信じられないほどで、21世紀CGアニメの精華ともいうべきたいへんな傑作だと思う。

 LV-52TH1で見るネズミの毛並みのリアルさ、動きのなめらかさは息をのむようだし、立体的に描かれた料理の数々は、ほんとうに美味しそうに見える。フランスパンのきめ細かさなど、本物を超えた本物感と言いたいほど。どこか古風な色彩と柔らかな黒で描かれるパリの街の造形も素晴らしく、街の空気感までが画面から漂ってくるかのような錯覚に陥る。

 なんでもピクサーの制作スタッフは、事前にパリの街に長期間滞在し、街の雰囲気、フランス料理の味と香りを目と鼻と皮膚に染み込ませてから映像制作を始めたのだという。

 エンド・クレジットの最後に“100% Genuine ANIMATION! no motion capture”と表示されるが、ここに誇り高きピクサーのアニメーターたちの矜持がうかがえ、この文言を目にしたときは、なんだかジーンと感動してしまった。

 しかし、忘れてはならないのは、ユニフォミティを徹底し、6500ケルビンの色温度を全輝度領域で管理し、標準ガンマカーブの完全トレースにこだわった、LV-52TH1だからこそ表現し得た「どこか古風な色彩と柔らかな黒で描かれるパリの街の造形」なのだということ。基本に忠実に厳格に画質を追い込んだテレビで初めて味わえる官能表現世界があるのだなあと深く感じ入ったTHX認証テレビとの出会いだった。

執筆者プロフィール:山本浩司(やまもと こうじ)

1958年生まれ。AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」(ともにステレオサウンド刊)の編集長を務め、昨年秋フリーとして独立。マンションの一室をリフォームしたシアタールームで映画を観たり音楽を聴いたりの毎日。つい最近20数年ぶりにレコードプレーヤーを新調、LPとBD ROM、HD DVDばかり買ってるそうだ。


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