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「アップコンバート」――薄型テレビ時代に増す存在感デジモノ家電を読み解くキーワード

» 2008年02月28日 11時00分 公開
[海上忍,ITmedia]

アップコンバートの目的は「SD→HD変換」

 アップコンバート(アップスケーリング)とは、各種のプレーヤーなどがテレビなど映し出す映像機器の画面にあわせて、映像サイズを拡大する機能のこと。情報量すなわち画素数の少ない映像を、高品位テレビに適合するよう情報量を増やす役割を果たす。テレビにおいては、従来の地上波アナログテレビ放送の番組(SD品質)を、ハイビジョン対応の薄型テレビでも見やすくするようHD品質に変換する処理、と言い換えてもいいだろう。

 1920×1080ピクセルのフルハイビジョン対応テレビで、640×480ピクセルのSD映像を映すことを例に考えてみたい。両方式は縦横比率が異なるため、そのまま変換すると上下左右に余白が生じるので、上下方向を1080ピクセルに収まるまでいっぱいに拡大(映像の両端に黒い領域を加える「サイドパネル方式」の場合)したとすると、SD映像は縦横それぞれの方向に約2.25倍に拡大されることになる。

photophoto 単純に拡大しただけでは、ジャギーやにじみが発生してしまう

そう単純ではないアップコンバート

 HD対応テレビにおけるアップコンバートは、映像の情報量を“水増し”してHD品質らしく見せることが主な目的だが、話はそれほど単純ではない。アップコンバートには、いくつかの課題が伴うのだ。

 そのひとつが「補完処理」。SD→HD変換は、SDの画素1つにつきHDでは画素4つ、といった単純な処理では十分でなく、SD映像を解析した結果をもとに補完処理を行い、HD映像の高精細化を図る必要がある。補完処理が低レベルの場合、輪郭がギザギザ(ジャギー)になったり、色にじみが発生したりなど、映像の品位は低下してしまう。

 もうひとつが「高い処理性能」。アップコンバート用チップとしてはアンカーベイテクノロジー製やシリコンオプティクス製が知られているが、映像の変換はかなり負荷が高い。より品質の高いアップコンバートのため、より高性能な処理系が求められてる。

 東芝が開発したメディアストリーミングプロセッサ「SpursEngine」はCellのプロセッサコア「SPE」(Synergistic Processor Element)を4つ搭載しており、高速・高品質なアップコンバート処理を実現する。オリジナルのSD映像より高画質になることはないが、補完処理性能の向上によるジャギーの軽減は期待していいだろう。

photo CEATEC JAPAN 2007で実施されていた、SpursEngineによるアップコンバートのデモ

 このSpursEngineは、プレイステーション3の採用などで知られるCPU「Cell」をベースに開発されている。SpursEngineは量産化のめどがつき次第、開発元である東芝の製品などに採用される見込みだ。

 Cellプロセッサベースの技術は急速に強化されつつあり、1月に開催された2008 International CESの東芝ブースでは、SD→HDのアップコンバートのみならず、48本分のSD映像をリアルタイムに同時にエンコード、それを1画面にまとめて映し出すデモが実施された(関連記事)。PCを選ぶときにはまずCPUのスペックを確認するものだが、薄型テレビ選びもCPUスペックがポイント、という時代が近いのかもしれない。

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