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IPマルチキャスト放送で揺れるホームネットワーク小寺信良(3/3 ページ)

» 2008年03月31日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 すでに多くのIPマルチキャスト対応STBが世の中に出回っているだろうし、中にはテレビに組み込まれてしまっているケースもある。これらの仕様を今さら変えるのは、とても無理だろう。そうなると、おそらく今後はルータなどのネットワーク機器でうまいことさばいていく必要がある。

 短期的には、ブロードバンドルータにはIPv6マルチキャストだけ分離して、特定のポートにしか流さないといった機能が必要になるだろう。またブリッジで使用する無線LANルータには、マルチキャストパケットをカットする仕組みも検討した方がいいだろう。もちろん途中でマルチキャストパケットをカットしてしまったら、それはマルチキャスト対応ルータとは言えないという変なジレンマが発生するかもしれない。

 一方で長期的に見れば、IPマルチキャスト放送の普及よりも早く、ギガビットイーサネット+IEEE 802.11nが普及してしまえば解決する問題でもある。要はホームネットワーク全体の速度を上げて、力ずくでねじ伏せるわけだ。ただそうなったらそうなったで、今度はその速度に見合うビットレートを消費する別のソリューションが登場するだろうから、いつまでたってもいたちごっこが終わらないという可能性もある。

2.4GHz帯の悲劇

 もうひとつ、無線LANにまつわる別の問題を指摘しておきたい。ご存じのように、無線LANの11b/g、また11nでも使用可能な周波数帯域である2.4GHz帯は10ミリワット以下の出力であれば免許なしで自由に利用できる。少し前ならば、無線LANの使用者もそれほど多くなかったが、最近は自分のもの以外のルータが見つかることも多い。マンションなどの集合住宅では、上下左右から電波が来るという状況も、そろそろ珍しくないかもしれない。

 無線LANルータ同士であれば、お互いのチャンネルを監視しあって、自動的に空いたチャンネルにアサインし直してくれるため、あまり問題がない。問題は、無線LANではないものもこの帯域を使用するということである。代表的なところでは、Bluetooth、電話機の子機との通信、ワイヤレスヘッドフォンなどがあるが、最近問題になってきているのが、監視カメラである。

 今や赤外線照射型監視カメラも、廉価で買えるようになった。これらは電源供給はしなければならないが、映像の伝送は無線で行なう。この通信も、やはり2.4GHz帯を使用しているものが大半だ。家庭用としても使えるようなものは、IPパケットを投げる無線LANタイプのカメラが多いが、少しレガシーで業務用チックな機材になると、単純にカメラと専用レシーバ間を無線で飛ばすだけ、という製品が多い。

 これら監視カメラを大量に使う駐車場や倉庫などが近隣にある場所では、かなり複雑な電波状況になっているわけだ。もちろんこれらにも互いの混信を避けるために独自のチャンネル割り当てがあり、全域を丸ごと使うわけではないが、無線LANのチャンネルと干渉して、妨害電波のようなことになってしまう。

 相手がIPパケットではない電波を発している場合、無線LANルータの自動チャンネル切り替え機能は動作しない。なぜならば、無線LANルータは、無線LAN規格に則ってお互いのチャンネル情報を監視しあうわけで、そもそもIPではない電波に対しては情報を交換することが出来ないからである。

 これの意味するところは、これから加速度的に、自動チャンネル切り替え機能が使えなくなってくるだろうということである。もしIP以外の電波を避けてチャンネルを探すような機能を実装使用とすれば、無線LANにIP以外の電波強度も測定できるアナライザを装備しなければならなくなる。もちろんそれは、単純なコストアップに繋がるだろう。

 久しぶりに無線LANルータを設置してみて、うまく動かなかった経験はないだろうか。壊れていると思って新しいものを購入した人もあるかもしれないが、もしかしたらそれらは壊れているわけではなく、妙なパケットをうまくさばけなかったり、そもそもIPではない電波に負けているだけかもしれない。

 無線は目に見えないだけに、何が起こっているのか分かりにくい。無線LANのセキュアな仕組みは、AOSSなどの登場でずいぶん簡略化されたが、それ以外のプリミティブなところで、もう一度基本に戻らざるを得なくなる事態が起こり始めている。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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