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「フロントサラウンド」――薄型テレビの音を省スペースでリッチにデジモノ家電を読み解くキーワード

» 2008年04月03日 01時42分 公開
[海上忍,ITmedia]

 省スペース型のAV機器が好まれる現在、前と後ろにいくつもスピーカーを配置して……という方法ばかりがサラウンドシステムではない。今回は、薄型テレビ時代にピッタリな「フロントサラウンド」を取りあげてみよう。

フロントサラウンドの利点

 フロントサラウンドとは、リスナーの背面にスピーカーを設置することなく、前面に配したスピーカーだけでサラウンド音場を再現するオーディオセットだ。

 四方八方から音が聞こえるようなサラウンド音響は、一般的に後方2台+前方3台+重低音専用1台の計6台(5.1ch)で環境で構築するが(7.1chなどではもちろんその限りではない)、それをより少ない台数のスピーカーで賄うことがフロントサラウンドの主旨だ。設置場所をとらないことが大きなメリットといえる。

 薄型テレビ向けのフロントサラウンド製品は形状(テレビラック一体型と独立設置型)のほか、音場を再現する技術による分類もできる。その方法はそれこそメーカー・製品ごとに千差万別だが、ここではいくつか代表的な方式と特徴について説明してみよう。

メーカーにより工夫はいろいろ「バーチャル方式」

 まずひとつの方式として利用されているのが、いわば「バーチャル方式」といえる、スピーカーが出す音の位相や時間特性を電気的に変化させ、リアスピーカーを設置せずとも、マルチチャンネル音場を仮想的に再現する方式。

 メーカーや機種によりさまざまな技術があるが、搭載したデジタル信号理専用のCPU(DSP)を駆使して仮想サラウンド音場を再現する「スーパーフロントサラウンド」(ボーズ)、「S-Forceフロントサラウンド」(ソニー)が、サラウンドらしい臨場感では定評のあるところだ。

 ユニークなところでは、5chぶんのスピーカーを1ユニットに収めたNIROの製品群が挙げられる。最新の「Spherical Surround System」では、2基のスピーカーユニットをテレビの上下に配置することで、高さ方向の立体感の再現性が向上している。

photophoto ソニーの「RHT-S01」(左)、NIROのフロントサラウンドシステム「Spherical Surround System」(右)

音をビーム化する本格派「リアル5.1フロントサラウンド」

 コンサート会場の盛り上がりは、場の雰囲気もさることながら、「音を体で感じる」ことにあるといわれる。大型ウーファーならではの音圧が、音楽に迫力と説得力を与えているのだ。

photo ヤマハの「YSP-3000」。この内部には多数の小型スピーカーが埋め込まれている

 ヤマハのサラウンド技術「リアル5.1フロントサラウンド」は、その音圧に着目。鋭い指向性を持つスピーカーで音をビーム化し、壁や天井を利用して反射させ特定の音を指定した方向に進ませることにより、リアルなサラウンド音場を再現する。前からの音を「後ろから聞こえる」ように感じさせるのではなく、実際に音を後ろからリスナーへ届けることが大きな特徴だ。

 ヤマハの製品ではビーム送出用としてスピーカーユニットに数十基の小型スピーカーが埋め込まれるため、結果として価格は高めに設定されているが、サラウンド効果は上々。設置スペースは厳しいが予算は潤沢、という向きにはいいチョイスとなるだろう。

執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)

ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。


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