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取材の方法論を変えたハイビジョンカメラ小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2008年04月28日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 コンシューマのビデオカメラがハイビジョン化して数年が経過するが、この春には子どものいない人でもガジェット好きならグッとくる製品が出てきた。メモリーの大容量化/低価格化で、動画の記録も現実的になり、カメラ本体も十分に小型化した。日常的にカバンへ入れておいても、苦にならないサイズだ。

 ビジネスでハイビジョンカメラを使おうという動きは、すでに意外なところから始まっている。大手新聞社では記者に対してビデオカメラを配布し、携帯させているのだという。取材中だけでなく、通勤・移動中などで事件に遭遇した場合でもすぐに対応できるという配慮からである。

 筆者自身も、ビデオカメラを取材に活用できないかずっとチャンスを伺ってきたが、この4月に米国で行なわれたNAB(National Association of Broadcasters)取材において、試験的にハイビジョンカメラだけで取材を行なってみた。今回はその体験をふまえ、その現実性とメリット、デメリットなどを考えてみたい。

使える同時撮影機能

 今回NAB取材に携行したのは、キヤノンの「HF10」(レビュー)である。このモデルはすでにCMでもおなじみかと思うが、本体内に16Gバイトのメモリを内蔵、加えてSDメモリーカードも使用できるダブルメモリー機だ。形状はいわゆる普通の横型のカメラだが、サイズ感としては過去のハイビジョンカメラより一回り小さいところがポイントである。

photo 実際にNAB取材で使ったHF10。ステッカーのすり切れ具合が酷使を物語る

 似たような条件のモデルとしては、ソニーの「HDR-TG1」(レビュー)がある。縦型コンパクトを目指したモデルで、目的としてはこちらも合致するが、残念ながら発売日の関係でNABには間に合わなかった。こちらは後日別の取材でテストした。

 長期の出張取材でどの程度の機材を持って行くかは悩むところだ。多くのライターはデジタル一眼レフを携行している。もちろんそのグレードの写真が必要だから、重いのを覚悟で使っているわけだが、筆者はほとんど寄稿媒体がWebなので、それほど高解像度の写真が必要ないということと、機動性を重視することもあって、以前からコンパクトデジカメで取材してきた。

 ハイビジョンカメラのレビューを通して、これらの静止画機能も十分テストしてきたつもりだ。その経験からすると、芸術的な写真を撮るという意味では本家のカメラにはまだ及ばないものの、現場感を伝えることがメインの取材では、あまり問題ないと判断した。一応予備でコンパクトデジカメも持って行ったが、実際に現場ではHF10しか使わなかった。

 コンベンションでの取材は製品の写真を撮影する以外にも、説明員の話をメモとして録画したり、デモンストレーションを記録したりといった用途が多い。また途中インタビューを挟めば、だいたいそこで1時間ぐらい連続撮影することになる。

 ここで不安になるのはバッテリーである。HF10は、形状としてはオーソドックスな横型設計なので、大型バッテリが装着できる。大型バッテリー「BP-819」を使用すれば、SPモードで約3時間撮れる。これに付属の標準バッテリーを合わせれば、合計で4時間半だ。内蔵メモリにSPモードで撮影した場合、約4時間45分である。1日の取材では、このバランスがちょうどいいところだろう。

 文筆でのアウトプットにも関わらず、筆者が取材で動画にこだわるのは、話を聞きながら写真が撮れるからである。例えばこれを従来の取材スタイルで行なおうと思ったら、話をメモ帳に書きとめ、次の説明に移動する前に「あっあっちょちょっと待ってください写真を撮らないと、すいませんすいません」と中断することになる。そのぐらいやれよライターだろ、と言われるかもしれないが、筆者はそういうところで話に割り込めない小心者なので、そういうことがとても心の負担になるんである。

 だがご存じのようにHF10のようなビデオカメラは、動画の撮影を停止せずに高解像度の写真が撮影できる。この機能を使えば、相手の話の腰を折らずに、スマートに写真まで撮ることができるのだ。

 難点は、動画撮影中にはフラッシュが使えないことだ。ただHF10の場合は良くしたもので、高輝度LEDビデオライトが付いている。展示ブースでは照明が暗いところも多いが、ビデオライトを併用して、写真もそこそこ手ブレなしに撮影できた。写真が16:9になってしまうが、トリミングすれば済む話である。

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