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ねじれがねじれを産み続ける補償金と機器の関係小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2008年06月23日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

Blu-ray Disc課金は補償金を拡大するか

 そもそも「Blu-ray Discに課金する代わりにダビング10開始」というプランは、文化庁と経産省の調整で持ち上がってきたプランだ。しかしこれに対しても、権利団体とJEITAの反応は、変な具合にねじれていた。

 普通に考えるならばこのプランに対してJEITAは、「新たに補償金対象が拡大するなんてとんでもない」と言わなければならない。事実6月2日のダビング10開始が頓挫した原因が、それのはずである。しかし実際には、この裁定を歓迎する意向を示した。

 一部では、ある大手メーカーが6月2日までにファームウェアの準備が間に合わないから、なんとしても1カ月の時間稼ぎしたかったのだ、という報道もあった。まあ7月5日前後というのは、タイミングとしてもちょうど合う。

 権利団体側はどうかというと、補償の対象が増えて喜ぶだろうと思ったら、Blu-ray Disc課金を身代わりにするかのようなダビング10の開始は認められない、という趣旨であった。

 この逆転現象を理解するには、現状の補償金の対象をよく見ておく必要がある。補償金の対象となるデバイスおよびメディアは、「著作権法施行令」で決められている。まあこれを見てもなにがなんだかさっぱり分からないとは思うが、機器側のほうはDVD記録機能があれば、現時点でもすでに補償金の対象となっている。

 一般に「DVDレコーダー」とか「HDDレコーダー」と言えば、慣習としてHDD&DVDのレコーダーとして理解されることが多い。その辺がややこしいので、報道の上ではかなり情報が混乱した状況になっているが、HDD&DVDレコーダーはDVD録画機能があるため、補償金を払っている。

 そしてBDレコーダーもDVDへの記録機能があるので、やはり補償金を払っている。ということは現時点で対象となっていないものは、シャープ「BD-AV10」のような、BDにしか録画できない製品ぐらいのものであろう。本当に払っているのは消費者なのに、どれが払ってどれが払ってないかを誰も知らないというのは、日本の補償金制度の抜本的な問題なのだが、それはここでは置いておこう。

 ここで新たにBDにも課金という事になると、もちろんBDメディアもその対象となることは間違いない。しかしご存じのように、BDメディアはまだまだDVDほどに普及しているとは言い難い。補償金対象を無視して単純に枚数だけで言えば、DVDは年間約50億枚、BDは2400万枚規模だそうである。DVDのCPRMメディアの比率がどれぐらいか分からないが、仮に1/10だとしても、まだBD全体より20倍以上の規模だ。その分BDは値段が高いが、値段が高いうちは普及しないので、現在の値段のままで売り上げが伸びることは期待しない方がいいだろう。

 機器の方はと言うと、仮にDVDとBDの分で2倍ね、となったところで、補償金の額は機器の卸値の1%で、上限が1000円と決まっている。これが2%になっても、卸値で10万円を超える機器は全部1000円で足切りなので、補償額は全然増えない。高額商品の場合、上限をいじるしか増える道はないのだ。

 ものすごい譲歩に見えるBD課金も、増分は大したことはない。もちろんそれらの補償金は消費者が払うもので、メーカーが払うわけではない。メーカーは事実上自分たちが払っているとは言うが、補償金が消費者負担というのは著作権法で決まっていることなので、企業の決算に録画補償金を損金として計上するわけにはいかない。経理上もメーカーが負担しているという証拠は、存在しないのではないか。

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