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情報教育は実際どうなっているのか小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2008年07月07日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 MIAU版インターネット教科書プロジェクトの課程で、中学校の技術の先生、高校の情報の先生らにヒアリングを行なってきた。我々のようなネットの団体が、学校のようなオフィシャルなところに立ち入ることができるのか、という懸念はあったのだが、実際にはかなり「開かれた学校」が多いこと、先生自身も情報教育についての問題意識が高いことから、案ずるより産むが易しといった状況であることが分かってきた。

 やはり実際に子供たちと日々顔をつきあわせている先生たちというのは、まさに現場そのものである。単に机上で今の子供たちを想像してあれこれ考えるよりも、現実ははるかに先に行っている部分もあるし、なんでそんなことにと驚くようなこともある。今回はそのヒアリング結果を踏まえて、現状の情報教育の問題と現実を多くの人に共有するとともに、今後やるべきことを考えていきたい。

イメージとしての子供と現実のズレ

 青少年への情報リテラシー教育を考える上でもっとも重要なのは、子供の現実の姿を見誤らないことである。今回の青少年ネット規制法案には多くの人が「何かおかしい」と感じたのは、おそらくそこがズレているからだろうと思う。

 さらにもう1点指摘するならば、今の中高生の親の世代というのが、現在もネットというものに依存していないため、議論の中心から外れているということも大きな問題である。つまり、青少年ネット規制に異を唱える人の多くは、子供でもなく親でもない中間世代である、という不思議な構造となっている。

 我々が学校の先生に直接ヒアリングを行なったのは、どこかでズレてしまっている「今の子供像」を補正するためだ。それならば子供に直接聞けばいいじゃないか、という意見もあろう。実はそれも以前、中学生を集めてトライしてみたことがある。しかし子供たちを集めてのヒアリングは、あちこちで雑談やじゃれ合いが始まって、収拾がつかなくなってしまった。ダイレクトに子供を相手にするには、先生のような有無を言わさぬ統率力や強制力が必要なのだろう。

 今回先生方へのヒアリングで分かったことは、まあ筆者も子供を見てうすうすは分かっていたことだが、今の子供たちは携帯電話への依存度が非常に高く、日常生活と切り離しができなくなっているということだ。

 携帯電話の保持率は、全国平均では中学生では4割程度という数字になるようだが、ある都内の私立中学で今年4月の入学時に調査した結果では、新一年生で男子は72%、女子に至っては96%もの生徒が所有しているという結果が出たという。

 これには理由がある。そこは私立中学であるから、当然受験をして入ることになる。ということは小学校から塾通いをしていた子供がほとんどであるため、安全のために親が持たせていたというケースが相当多いのである。その理由から推測すれば、都市部の私立では多かれ少なかれ、この水準であろうと思われる。

 全国平均で大きく保持率が下がるのは、やはり都市部と地方部の差が相当大きいからであるあろう。この保持率からは、親が率先して持たせたというケースがどれぐらいなのかを具体的に計り知ることができないが、もしそのような調査があれば、その地域社会の安全度・信頼度と相関関係を示すのではないだろうか。

 学校への携帯電話の持ち込みは、事実上禁止にはできないという。なぜならば、親が安全のために持たせているという意向が強く、教育委員会を通じて圧力をかけるからである。ただし授業中に携帯電話の使用は禁止している学校は相当ある。また学校にいる間は、携帯電話を先生が預かって、職員室にまとめて保管するというところもある。つまり携帯電話は、すでに「学校に持って行って当たり前のもの」であるわけだ。

 そして子供たちが考える「インターネット」は、携帯で行けるサイトのことである。最近はフルブラウザ搭載の機種も増えてきたが、まあ一般的にはケータイサイトが彼らの「インターネット」だ。

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