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情報教育は実際どうなっているのか小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2008年07月07日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

的確な対応が求められる先生

 現在中学校の学習指導要領では、技術の教科に「情報とコンピュータ」という項目があり、情報リテラシーについて教える単元が入っている。しかし現場でそれをどういう形でやるかというのは、技術担当教師の裁量に任されている。

 この点では、問題点が2つある。まず1つは、すでに子供の情報の中心は携帯電話であるのに、教える主体が「パソコン」であることだ。これはもちろん、教科書ではネットワーク情報機器として携帯電話を想定していないということも原因だが、何よりも先生がパソコンのほうが分かるので、そっちを教えたがる傾向があるという点は、今後の課題となるだろう。

 もう1つの問題は、学校には技術や情報の先生がたいてい1人しかおらず、複数の先生間で授業ノウハウや学習教材といった情報交換ができず、孤立しているという点だ。情報教育の責任ばかりが年々大きくなる割には、授業の単元数は増えないので、先生も増えない。

 また技術や情報専門の先生を置けない学校も多く、地方に行くほど、他の教科と兼任しなければならなくなるという事情がある。これもまた、情報教育に関しての教材作成などの時間が限られていくため、ますます手薄になるというスパイラルを産んでいる。

 その一方で、高校の情報の教科書にもいろいろ問題があることが分かってきた。一番の問題は、検定から使用開始までのタイムラグである。今手元にある高校の「情報A」の教科書は今年から使用するものであるが、検定を受けたのが4年前である。別の出版社の少し新しめのものでも、2年前だ。制作時期から逆算すれば、今年使う教科書は、最悪の場合5〜6年前の事情で書かれたもの、ということになる。

 数学や国語などは、年々新しく事情が変わっていくようなものではないため、それぐらいのタイムラグは関係ないかもしれないが、こと情報に関しては到底現状に追いつくことはできない。教科書は、モラルという部分での方向性は示すことはできるかもしれないが、「今の現状」を期待するのは無理だ。

 さらに情報の教科書は、実は調べていくとかなり根の深い問題があることが分かった。最初に「情報」の授業が始まったのが平成15年だが、当時商業高校や商業科が減少していくなかで、ワープロ検定やパソコン検定対策がこの「情報」に盛り込まれた。したがって初期に情報の教員となったのは、商業科の先生が多かった。

 しかし平成19年には教科としての「情報」の内容が大きく変わり、現在のようなネットワークやマルチメディア活用といった方向になった。この新しい教科書が、「新版 情報」という名前で出ている。しかしもともと商業科の先生では、この「新版 情報」を教えるのは難しい。しかも現在はまだ、旧版の「情報」の教科書も使われており、学年によって新版旧版両方の対応が求められているところもある。ちゃんと「情報リテラシー」を教えられる先生も時間も、実はそれほど多くないという実情が浮かび上がってくる。

 さらにこの問題は、4年後に中学校に降りてくる。平成24年度から中学で施行される学習指導要領では、これまで高校の情報の授業で行なってきた情報モラルを、中学の「技術・家庭」に降ろすことが決まっているのだ。高校では、情報モラルに関しては中学で履修済みとして、復習程度の軽い扱いになるか、場合によっては扱わなくなるだろう。

 技術・家庭は、ただでさえ扱う分野が相当に広い。衣食住の問題に加えて、材料加工やエネルギー問題、そして情報モラルやデジタル化の基本概念、さらに知財保護まで教えなければならない。1人の先生が教えられる限界を超えているのではないかとすら思う。

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