ITmedia NEWS >

CEATECで見えてきた“超解像処理”の今後本田雅一のTV Style

» 2008年10月06日 10時48分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 先週、幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2008」では、シャープがLEDバックライトを用いることで高コントラストを実現した「AQUOS Xシリーズ」を発表したほか、三菱電機も“REAL”の新製品「LF2000シリーズ」を発表。東芝はCellテレビをさらに製品に近い形でデモンストレーション。事前に展示のアナウンスがあったパナソニックの3Dシアターに加え、三菱のレーザーテレビも3D対応のデモを行った。

photophotophoto シャープの新Xシリーズ「「LC-65XS1」(左)。三菱電機の「LF2000シリーズ」(中)。同じく三菱のレーザーテレビ(右)

 これらの中で、個人的に最も注目したのは“超解像技術”だ。純粋に技術として発展の可能性が大きいということもあるが、(ブロードバンド配信を含む)放送、ビデオカメラ、パッケージという3大映像メディアにおいて、今後、フルHDからさらに高解像度に至るまでに相当な時間がかかりそう、という事情もある。

 東芝のREGZAを紹介したコラムでも述べたように、超解像といってもさまざまな手法がある。東芝の「レゾリューションプラス」は、画素の再配置と補完を行い、その縮小画像を元画像と比較し、その差分からディテールを拾っていくといった手法で、1枚のフレームから超解像の映像を得ている。SDから直接の超解像処理は行わず、横1440ピクセルの放送を1920へと超解像処理することで、フルHDパネルの特性を生かすのが狙いだ。

photophoto 東芝ブース。レゾリューションプラスのデモには人垣ができていた(左)。Cellテレビも大人気(右)

 ほかの画像処理を専門とする技術者からは、“異なるフレームからも情報を拾わないと、本当の意味での超解像にはならない”という声もある。確かに時間軸方向にも情報を拾う次元を広げれば、超解像処理はさらに素晴らしいものになるだろうが、現在の技術ではリアルタイム処理は不可能だ(非リアルタイムの技術デモならば、以前からある)。

 進化のプロセスとしては、まず同一画面内の画素再配置による超解像処理でノウハウを蓄積し、処理能力の向上に伴って徐々に参照フレーム数を増やしていくという手順になる。おそらく、今後5〜10年ぐらいは超解像の質が目に見えて向上していくのではないだろうか。

 既存のDVDをキレイに見たいという要望が現時点では大きいだろうが、超解像技術が成熟してくる頃には、DVDはあまり重要な映像アプリケーションではなくなっているかもしれない。最初からフルHDで製作されている映像ソースが多くなってくるからだ。展示会場で休憩しているとき、「放送もHD、パッケージもHDになれば、超解像はいらないのでは?」という質問をされた。しかし、映像ソースがフルHDだらけになっても、映像ソースの品質がフルHDというフォーマット限界ギリギリの画質ということはない。

 例えば、BSデジタルの一部チャンネルを除き、日本のデジタル放送は1440×1080ピクセルのインタレースだ。横方向の解像度はフルHDパネルとは合っていない。これに着目した東芝のやり方もあるが、日立の手法も非常に興味深い。

 日立製作所は、映像そのもの品質によって超解像のパラメーターを変化させる。例えばSD映像をアップコンバートしてHD放送に挿入している場合でも、元映像の情報量が少ないことを検知して超解像処理を行う。

photophoto 日立製作所の超解像技術デモ。SD/HDが混在する映像でも処理は有効に働く

 上記は極端な例だが、実際にデジタルハイビジョン放送を見ていると、フォーマットギリギリの解像度が出ている番組は結構少ないものだ。日立の超解像処理をフルHDの放送にかけても、より高精細な映像とすることができるだろう。HD放送とは、単に放送されている映像フォーマットがHDというだけで、中身の情報量までが保証されているわけではない。

 平たくいうと「えぇ〜っ! これじゃHDっぽくない」という放送やパッケージ、あるいは配信映像を、グッとシャッキリと、しかも多くの情報にあふれた精密な映像にしてくれるのが日立の超解像処理(といっても、その手法は明らかにされていない)というわけで、たとえHD放送+フルHDテレビの時代になっても役に立つ。すでにLSI化されている東芝のレゾリューションプラスとは異なり、日立の場合は、今後LSI化を検討していく段階とのことだが、言い換えればそのうちテレビに搭載されるというのだから期待したい。

 さらに、将来的にはフルHDよりも高解像度のディスプレイが登場してくるだろう。しかしそれに対応した映像ソースの方は心もとない。NHKは8K4K(8000×4000ピクセル)のスーパーハイビジョンの試験放送を2015年には開始するとアナウンスしているが、民放まで含めて8Kの機材が入っていくにはかなりの時間がかかると予想される。パッケージメディアや映像配信に関しては、まだ具体的な計画やめども立っていない。

 こうしたことを考えれば、今後、ディスプレイの解像度が高まることで、超解像処理が重要になっていくことは間違いない。まだ技術デモをしていないメーカーでも、当然ながら内部では超解像処理の研究は行っている。リアルタイム処理するテレビ向けLSIはもちろん、HDDなどに録りためた映像を空き時間に超解像させていくといった“熟成”処理を考えているメーカーもある。

 当面、おそらく今後数年は、超解像というキーワードで、毎年新しい話題が登場してくるに違いない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.