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オーディオの作法麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/3 ページ)

» 2008年12月03日 19時13分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 不況が長引くなか、明るい話題を聞く機会はそう多くない。しかし、ある意味不況と無縁なのが趣味の世界だ。確かに趣味がなくても生きてはいけるが、趣味を楽しむ余裕さえない人生は殺伐としたものになってしまう。多くの人が趣味として楽しむ、音楽もまたしかりだ。

 この状況下でもiPodを中心とした音楽文化は衰えることなく、高級イヤフォンの売り場は盛況で、JBLなどのオーディオメーカーからも、iPodを取り込んだオーディオシステムが多数発表されている。また、最近ではSHM-CDやHQCD、Blu-spec CDといった高音質CDが人気を博しており、「よい音」への欲求は常に存在していることを感じさせる。

 しかし、一口に音楽を楽しむといっても、その世界は非常に奥深い。iPodという入り口から音楽を聴く楽しさに目覚めた、比較的新しいオーディオファンにとっては「よい音」への近づき方を模索するだけでも一苦労だ。ただ、抑えるべきツボを的確に抑え、「オーディオの作法」を知ることができれば、そう難しいことでもない。

 デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏による『麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」』。今回は、フィリップス「LHH2000」やLINN「CD12」、JBL「Project K2/S9500」など最高級の名機を愛用する“音質の鬼”でもある麻倉氏に、最近の“よい音”事情と「オーディオの作法」をたずねた。

入り口として多大な貢献をするiPod

麻倉氏: オーディオの復活という話があります。これまでは団塊の世代に向けた製品や話題が主でしたが、最近ではiPodで聞くだけでは物足りないと感じた、若い世代もオーディオへ興味を持ち始めていると多くの販売店で聞きました。音楽市場の不況は長く言われていますが、音楽そのものに不況は存在しないわけで、「よい音で聴かないともったいない」という需要は常にあるのです。

 わたしが司会を務めるビックカメラ川崎店の月例イベントでは、「まず5万円で」というアイテムを紹介していますが、この価格帯にプラス数万円するだけで驚くほどその音は良くなります。実際、10万円のアイテムの音を紹介すると、参加者の反応は相当違いますね。これは老若を問いません。「いい音」とは普遍的な魅力や価値を持っているのです。

 音に関する感受性を高めるには経験も必要になりますから、常にいい音を聞く必要があります。いい音を聞き、磨いた感性でオーディオ機器に向き合い、不満や不足を感じたら買い換えていく。人とオーディオ機器が互いに高めあう関係が理想といえるでしょう。

 大学生を対象にMP3と非圧縮音声を聞き比べさせた調査では、ブラインドなしでは非圧縮音声が支持されるものの、ブラインドテストでは大半の学生がMP3を支持したそうです。これは普段聞いている音をよい音と判断したのではないかという話です。昔、美空ひばりの生音を聴いて、「レコードと違う」という声があがったという話も思い出しますね。

 日ごろからダイナミックレンジの狭い音ばかり聞いていると、それに慣れてしまいます。普段から接していないと「いい音」が分からなくなりますから、「いい音」を常に聞くことはとても大切なことなのです。そうした意味では、「いい音」が存在することに気が付き、iPodの標準白イヤフォンから卒業したいひとが増えているのはよい傾向だと思います。

 ここにきて、ミニコンを手掛けていた国内メーカーが、iPodを軸にしたシステムやソリューションを多く提案していることも注目したい動きです。そうした製品はCDもラジオも備えていて、カタチとしてはミニコンですが、確実に新しい製品として作られています。MP3が悪いのであって、デジタルオーディオプレーヤー(DAP)が悪いわけではないのです。非圧縮フォーマットで楽しめば、DAPでも見違えるような音がするのですから。

photo Apple In-Ear Headphones with Remote and Mic

 iPodをはじめとしたDAPの問題は2つあります。1つは圧縮による音質劣化、1つは付属ヘッドフォンの質が低いことです。この2重の問題をして「DAPは音が悪い」と言われるのです。つまり、非圧縮で取り込み、ヘッドフォンも自分の好きな音のする社外品を使えば、同じiPodでも音は激変するでしょう。最近、アップルの2ドライバ搭載のカナル型イヤフォン「Apple In-Ear Headphones with Remote and Mic」を聴きましたが、意外に良かったですね。

 スピーカーよりもヘッドフォンのほうが耳に近い場所から音を鳴らしますから、違いにはどうしても敏感になります。だからこそ気を配らなくてはなりません。また、最近はUSBを備えたり、iPod Dockを備えた真空管アンプすらもあります。使い方次第で、iPodはCDにならぶ新しい音楽メディアとして機能するでしょう。

 オーディオ協会が主催する「A&Vフェスタ」では、次回(2009年2月開催)、iPodや携帯電話の音をより楽しむためのシステム提案も主要テーマのひとつとしてあがっています。これはオーディオに限った話ではありませんが、どんな事柄も何かが入門のきっかけにならなくてはなりません。どちらかといえば保守的なオーディオ協会までもiPodに注目し始めたことは、ちょっとした驚きですね。

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