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ポスト・ネットブック時代のパソコン小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2009年01月19日 12時18分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 コンピュータのテクノロジーというのは、現時点では最も我々がその進化をダイレクトに体感しやすい技術である。それは製品やソリューションという姿で、生まれてからそう時間を経ることもなく、我々の前に姿を現わしてくれる。

 技術というのは、過去の技術の延長線上で創意工夫することで進化してゆく。このような継続的イノベーションは、短期的には予想がしやすい。しかし小刻みな進歩は、我々の生活に劇的な大変化をもたらさない。いや、実際には2年前を振り返ってみれば着実に変化しているのだが、それが小刻みなステップで行なわれるので、あまり気づかない。年に一度正月にしか会わない親類の子どもがすごいスピードで大きくなっているような気がするが、身近にいる親はあまり気づかないのと同じ理屈である。

 ところが世の中には、同じ目的を達成するために、従来とはまったく違うアプローチで実現されることがある。例えば突然何かが5倍とか10倍になったり、それまで価値が高いと思われたものが、使い放題になったりする。そうなったとき、我々の生活は大きく変わり、意識の中でパラダイムシフトが起こることになる。

 コンピュータ技術が多くのギークを引きつけるのは、パラダイムシフトが起こる頻度が高いからにほかならない。

2年で何が変わったか

 ムーアの法則によれば、半導体の集積度は18〜24カ月で2倍になるといされている。コンピュータを使うITの世界では、2年を待たず常になんらかのパラダイムシフトが起こっている。

 2年前を振り返ってみると、個人的にパラダイムシフトを感じたのは、イー・モバイルの登場であった。料金定額、都内なら地下でなければほとんどつながり、移動中も十分な速度を実現するサービスの登場で、電車の中が調べ物の時間に化けた。これは仕事効率からすれば、劇的な進化であった。

 さらに打ち合わせ中に分からなかった用語をネットで検索したり、関連内容を参照して理解を深めることができる。相手へ無駄な質問をしなくて済むようになり、同じ時間でより深い話が聞けるようになった。まさに「打ち合わせ2.0」である。

 昨年PC業界でもっとも話題をさらったのは、やはり低価格モバイルPCであったろう。一般に「ネットブック」と呼ばれているようだが、英Psionがいやがっているそうである。というのもPsionには以前からNetbookという製品があり、各国で商標も取っている。ただ日本では商標登録されていないようである。

photo PSION Netbook Pro

 英PsionのNetbookに関しては、以前コラム(〜来なかった未来〜 PDAはなぜ衰退したか)を書いたことがあるので、そちらを参照していただけばだいたいのカタチは分かると思う。かつてPsionがやろうとしていたNetbookのビジョンとMicrosoftの言うUMPCを比較すると、やはり低価格モバイルは「ネットブック」と呼ぶほうが、よくその性能を体現しているように思える。ここでは暫定的にカタカナの「ネットブック」で通すことにしよう。

 ネットブックでできることには、そのパフォーマンスの低さから自ずと限界がある。ビデオ編集や写真のRAW現像といったヘヴィな作業は全然無理だし、YouTubeで動画を見るのもレスポンスとして若干辛いものがある。

 だが今はちょっとネットが見られて、ちょっとブログ更新ぐらいできて、あとはメールチェックと返信ができれば十分、とにかく乱暴に扱っても惜しくない外使いのPCが必要というニーズを満たしつつある。これらは携帯で代用可能ではあるのだが、PCとしての体裁を保ったままでの価格破壊が新たな市場を作り、パラダイムシフトを起こした。

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