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ショーイベント報道が変わる、そしてその先は?小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2009年05月11日 12時25分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 先月米国ラスベガスで開催された、世界最大の放送機材展「NAB Show 2009」は、おおむね予想された通り来場者の減少が見られた。ラスベガスで行なわれるショーイベントのうち最大なのは1月に行なわれるInternational CESだが、NABはそれに次ぐ規模のショーである。確か数年前に来場者数が10万人を突破したはずだが、今年は8万人程度であった。しかしそれでも、一般の人には関係ない専門性の高いイベントとしては、破格な規模であることは間違いない。

 NABにはもう10年以上通っているが、こんなに人が少ないと感じがしたことは、あの911事件、すなわち2001年に起きた同時多発テロの翌年ぐらいである。当時は米国の景気が低迷しており、日本からは安全のために渡航を取りやめた人が多かったが、当時景気が良かった韓国・中国からは大勢が詰めかけ、その分を補っていた。

 人の少ない会場で感じたのは、「もったいない」という感覚である。人が来ないのに展示会をやってもったいない、という意味ではない。ショー自体は新製品も多く、例年通り充実していたのだが、それを実際に見に来ないことのもったいなさである。

 今年は各メーカーとも、あまり新製品に関して事前情報を出していなかった。それはこのご時世ということで、広告宣伝費を節約したのかもしれない。だがそれが結果的には、新製品目当てで来る人が減少するということになったわけである。やはり前評判というのは、重要だということだろう。

IT化するアウトプット

 ショーイベント全体からアウトプットされる情報は、大きく3つに分けられる。出展者(メーカー)からのリリース、イベント主催者からのリリース、取材者からのニュース発信の3つである。これらの出し方というのが、あきらかに数年前から変わってきている。

 最初に変化が現われたのは、メーカーからのリリースだ。以前であればプレスルームには紙のプレスキットが山のように置かれていたものだが、次第に紙のリリースが減り、CD-ROMが置かれることが多くなった。最近はそれもなく、プレスキットは各メーカーの特設サイトからダウンロードするようになってきている。

 それに合わせて、プレスルームにも無線LANや優先のネット回線が準備されるようになった。CESのようなコンシューマ向けのショーでは以前から完備されていたのだが、NABでプレスルームに無料のネット回線が入ったのは、まだほんの2〜3年ぐらい前にしか過ぎない。米国においても、それぐらい放送と通信という産業は、別レイヤーのものだったのである。

 プレスリリースがネットに置かれるようになると、それを探すのが大変になる。そこでNAB Showの公式サイトでは、各メーカーのリリース情報や製品情報を集約する、いわゆるアシスタント機能が重要な役割になっていった。ちなみに日本向けのサイトも存在するが、ほとんど機能していない。

 公式サイトでは単にリンクだけでなく、動画を始めとする数多くのコンテンツを集めた特設サイトもある。セッションの音声ファイルをオンラインで販売するなど、アフターケアもしっかりしている。

 今年のNAB公式サイトは、携帯電話にも対応した。iPhoneやWindows Mobile、Android機のようなスマートフォン、BlackBerryでアクセスできたようである。あいにく米国ローカルの携帯電話を持っていないので試せなかったが、会場で製品情報にアクセスできたら、どれだけ便利だったか知れない。

 扱うモノとしては放送機器だが、その情報発信はかなりIT化が進行してきた。だがこれまでのように、単にネット上に存在するだけで、あとはユーザーが勝手に探して見に行くというのでは、前時代的である。これらの情報を集約してカテゴライズし、ガイダンスすることが主催者側のスキルとして求められている時代になったということである。

 メーカー側の取り組みとしては、今回のNABではSONYがYouTube、Facebook、Twitter、flickrなどを使ってリリースや製品情報、ブースの様子などの配信を行なった。CESでもそこまではやっていなかったので、これはNABからの試みであろう。単に自社サイトに載せるだけのPull型リリース配信が、Twitterなどを使うことでPush型に変化し始めている。

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