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デジタルテレビをもっと便利にするいくつかの新技術NHK技研公開

» 2009年05月22日 13時27分 公開
[ITmedia]

 恒例の「NHK放送技術研究所一般公開」が5月21日にスタートした。今年も「スーパーハイビジョン」(SHV:Super Hi-Vision)をはじめとする最新の研究成果が数多く展示され、訪れた人たちの注目を集めている。

 ここ数年、技研公開のテーマになっているSHVは、現行フルハイビジョンの16倍にあたる7680×4320ピクセル(3300万画素)の解像度と22.2チャンネルの音声を持つ次世代ハイビジョン方式。今年は8K4Kプロジェクターを使った“SHVシアター”に加え、広帯域衛星「きずな(WINDS)」を利用した多チャンネル衛星伝送実験などが行われてる。

photophoto スーパーハイビジョンの多チャンネル衛星伝送実験。技研の入り口に設置されたパラボラアンテナで「きずな」から届く電波を受信する

 衛星伝送実験では、NHK札幌放送局に置かれたSHVカメラの中継映像に2つのSHVコンテンツをくわえた3つの映像を多重化して「きずな」に送信。きずなが中継した電波は、ビルのエントランス付近に設置したパラボラアンテナで受信し、分離装置でぞれぞれのコンテンツに分けてから復調するという手順になっている。AVC/H.264で符号化しても100Mbps以上の容量があるSHVを複数同時に伝送する実験は、SHV放送の実現には欠かせない。

photo こちらはパナソニックと共同開発した103V型の4K2K(3820×2160ピクセル)プラズマディスプレイ。画素ピッチは0.591ミリ

データ放送画面からオンデマンドビデオを視聴

 現行のデジタル放送をより快適に利用する仕組みも多く展示されていた。例えば「放送通信連携IPTVサービス」。これは、デジタル放送を視聴しているときに「d」ボタンでデータ放送を呼び出すと、関連するオンデマンドコンテンツのリストにアクセスできるというもの。つまり、「NHKオンデマンド」をはじめとする通信サービスへの入り口がデータ放送画面に設けられるため、わざわざIPTVの画面を呼び出してコンテンツを探す手間がない。

photophotophoto データ放送画面のメニューに「IPTVサービスへ」というボタンが用意される(左)。ここから「関連番組ダウンロード」でバックナンバー一覧を表示(中)。コンテンツを指定すると内蔵HDDにダウンロードされる(右)

 今回は、東芝、パナソニック、日立製作所の3社が協力して対応するテレビやレコーダーを試作し、デモンストレーションを行っていた。オンデマンドコンテンツは、ダウンロードとストリーミングの両方に対応可能。東芝の「REGZA」ではストリーミング、日立の「Wooo」とパナソニック「DIGA」は内蔵HDDにダウンロードする仕様だ。

photophotophoto ダウンロードとストリーミングの両方に対応。東芝の液晶テレビではストリーミングのサービスをデモンストレーション

 最近のテレビは、「アクトビラ」「ひかりTV」などのIPTVサービスに対応する機種が増えており、既にあるデータ放送と連携させることに技術的な課題は少ない。ただし、放送と通信を連携させる機能のため、IPTVの部分はIPTVフォーラム、データ放送はARIB(電波産業会)と、2つの団体で標準化作業を並行して行う必要がある。

 「まず7月のARIBでSTD−B24(データ放送関連規格)を検討し、秋から冬にかけて運用規定を作成する。一方、IPTVフォーラムでは通信部分の草案を作る予定だ」。対応する受信機の登場は、2010〜2011年になる見通しだという。

番組をオススメしてくれるテレビ

 最近のテレビやレコーダーには、視聴番組の履歴などから“おすすめ番組”をユーザーに教えてくれるものがある。そうした機能を進化させ、オンデマンドコンテンツから試みが、パナソニックと共同開発している「CurioView」だ。

photophotophoto 「CurioView」の実演

 CurioViewは、EPGの番組情報を活用して番組を探し出す。ここまでは現在の“おすすめ”機能とあまり変わらないが、「EPGの番組情報から特徴のある単語を抽出するほか、メタデータ(番組内容を説明する情報)同士の比較照合による検索方法を検討している。ニュースなど事前情報のない番組に関しては、放送局側でアナウンサーが話す内容を音声認識エンジンで取り込み、効率的にメタデータを付与する」。

 視聴中の番組を手がかりに関連コンテンツをテレビが自動検索。NHKアーカイブスなどに蓄積された膨大な映像資産の中から関連する番組を見つけ出す。視聴者の利便性向上とともに、放送局にとっては過去の映像資産を有効活用できるという大きなメリットがある。

 今後は、メタデータを効率的に付与する技術や検索手法の検討を進め、3〜4年で実用化にこぎ着けたいという。「いずれは標準化も必要だと考えている」。

風を映像化する「風カメラ」

 最後に紹介したいのが「風カメラ」だ。ゴルフやスキージャンプなどの中継番組で、上空に吹いている風をCGの矢印で表現しているところを見た人も多いはず。実はあの映像、数年前にNHKが計測器メーカーと共同で開発したシステムで作られている。

photo 「風カメラ」による映像

 風の方向や強さが分かる仕組みはレーザー光だ。“ドップラーライダー”と呼ばれる計測器を用い、大気中のちりにレーザーを照射。風に運ばれてちりが移動すると、反射したレーザーもドップラー効果によって波長が変化する。この変化をとらえることで、風の向きや強さが計算できるのだという。「ドップラーライダーは、もともと空港などで上空の様子を探るために開発されたもの。定点観測しかできない風速計や風向き計と異なり、2〜3キロメートル先までの空間内にある風の流れをリアルタイムに計測できるのがメリット」。

photophoto 風カメラをビルの4階に設置してリアルタイムの映像を流していた

 計測結果をCG化して中継映像に合成すれば、スポーツ中継でおなじみの映像ができあがり。「屋外スポーツでは、風が競技の結果を左右することも多く、選手はもちろん視聴者にとっても知りたい情報の1つ。風カメラが映し出す風の映像で、お茶の間でも風を感じてほしい」(NHK)。


 技研公開は5月24日(日曜日)まで。開場時間は、10時から18時(24日は17時終了)となっている。入場料は無料だ。

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