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何も足さず、何も引かない? 「ドルビープロロジックIIz」の効果とは

» 2009年07月09日 15時45分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 「ドルビープロロジックIIz」は、今年1月の「International CES」で発表されたドルビーの新しい音場表現技術だ。フロントスピーカーの上方に2つの“ハイトスピーカー”を設け、垂直方向を含む立体的な音場表現を可能にするというもので、既にデノンやオンキヨーから対応AVアンプが発表されている。ドルビージャパン、マーケティング部テクノロジー・エバンジェリストの松浦亮氏に技術的背景を聞きながら、いくつかのBDソフトで効果を検証した。

photo ドルビージャパン、マーケティング部テクノロジー・エバンジェリストの松浦亮氏

 松浦氏によると、プロロジックIIzの“z”は、文字通りZ軸の意味。「基本的には従来のプロロジックIIやプロロジックIIxの延長線上にあるマトリックスデコード技術です。プロロジックIIが2チャンネル音声を5.1チャンネルに、プロロジックIIxが5.1チャンネルソースを7.1チャンネルに拡張する技術ですが、プロロジックIIzは前方の左右上方に“バーチカルハイト”スピーカーを配置する7.1チャンネルもしくは9.1チャンネルへの拡張を行います」。

 ただし、疑似的に音とスピーカーを増やしてユーザーを“包み込む”手法とは異なる。松浦氏によると、制作者が作ったミックスに対しては、「何も足さず、何も引かない」という、まるでウイスキーのような処理だという。

 「プロロジックIIzが2つのバーチカルハイトに持ってくる音は、サラウンドペア(Ls/Rs)のチャンネルに含まれる逆相成分です。逆相成分は、その場でなっている感じのしない音。例えばクラシックソフトなどの“ホールトーン”と呼ばれる残響、雨や雷、鳥の鳴き声といった“アンビエンス”と呼ばれる環境音などに多く含まれます」。プロロジックIIzでは、このうち片チャンネルの位相を反転させ、同相として出力する。「制作者が作った音のパーツをやり取りしているだけで、それも方向感のない音、低音量の音ですから、もとのミックスは崩しません」。

 「何も足さない〜」という意味は理解できたが、ハイトスピーカーから出る音が地味でサラウンド効果も薄いような印象を受ける。しかし、実際の音を聴くと、すぐに疑問は解消された。

photophoto ドルビージャパン内の視聴室(左)。バーチカルハイトは天つりになっている(右)

 例えばBD「オベラ座の怪人」の劇場、「ティム・バートンのコープス ブライド」に出てくる石造りの城などはちょうどいい残響がサラウンドチャンネルに入っているようだ。プロロジックIIzをオンにすると、高さ方向を含む“包囲感”が高くなり、音の印象はがらりと変わった。しかし、バーチカルハイト以外のスピーカーをオフにしてみると、本当に地味な音しか聞こえてこないから不思議だ。

 プロロジックIIzには、音像を若干ながら上に引き上げる効果もある。今回の試聴環境は、大きなスクリーンの下にセンタースピーカーを配置した、ホームシアターにもよくあるセッティング。音楽ソフトでボーカルがアップになったときなどは、やはり声が“下から聞こえる”傾向にあるが、プロロジックIIをオンにすると声が画面中央に定位した。フロントやセンターの音にはまったく手を加えていないはずだが、音場が上に広がる分、ボーカルの声も引き上げられるようだ。

 BD「アイ・アム・レジェンド」では、別の効果が見受けられた。廃虚になった街で、車がカメラの横をすり抜けるシーン。視聴者の右側を、前から後ろにかけて音が勢いよく駆け抜けていく場面だが、プロロジックIIzを使うと音のつながりがスムーズになる。フロントスピーカーとサラウンドスピーカーの間に生じる音の薄さ(いわゆる中抜け)が解消された。

 個人的に最も印象的だったのは、「U-571」の限界深度を超えて潜航するシーンだ。船体のあちこちが“ぎしぎし”と音を立て始め、乗組員たちが不安そうな面持ちで天井を眺める。従来の5.1チャンネル/7.1チャンネル再生では、上を見ているのに音は後ろから聞こえるという違和感があったが、プロロジックIIzをオンにすると視線と方向感がぴたりと合う。それも“ぎしぎし”という音がスピーカーのあるフロント上方から聞こえるのではなく、まるで天井スピーカーのように天井全体が鳴っている印象だ。

 また今回は試聴できなかったが、松浦氏によると同様の効果は「キル・ビル2」でも感じることができるという。棺おけの中に閉じこめられ、上に土が落とされていくシーンがそれ。「自分の上に積もっていく土の“高さ”まで感じることができます」。

 プロロジックIIzは、前述のようにサラウンドペアに逆相成分が含まれるケースで効果が出るため、ソースとしては、5.1チャンネル以上の収録あるいはステレオ(マトリックスデコードでLs/Rsに逆相成分を振り分ける)が前提となる。また、“残響成分や環境音の多いシーン”以外の傾向としては、「お金をかけて凝ったミックスを行っているソフトほど、逆相成分が多く高い効果が得られることが多い」という。効果の高さで制作側の力の入れ方までうかがえるというのも、ちょっと面白い。

プロロジックIIzは“別の7.1チャンネル”

 バーチカルハイトスピーカーの設置方法は、「フロントより3フィート(約90センチ)以上の高さをとり、できるだけ高い方がいい。真上を推奨するが、フロントL/Rより広い角度(ワイド)に置いてもいい」というもの。実際、今回の試聴環境もフロントより外側の天井にスピーカーをつるしており、角度に関してはあまり神経質になる必要はなさそうだ。ユーザーから左右に22度〜45度の範囲(スクリーン中央が0度)であれば、十分に効果が期待できるという。

 松浦氏によると、ドルビーやAVアンプメーカーが想定しているプロロジックIIzのメインユーザーは、「5.1チャンネルからのステップアップを考えている中級ユーザー」という。最大9.1チャンネルといった数字が一人歩きしがちだが、むしろ従来の5.1チャンネルにバーチカルハイトを加えた“別の7.1チャンネル”の需要が高いと予想している。

 「リスニングポジションのすぐ後ろに壁がある場合など、サラウンドバック(Lb/Rb)の設置に適さない環境も多いでしょう。それでもバーチカルハイトが設置できれば、プロロジックIIzで分厚い音場を作り出すことができる。さまざまな環境のあるホームシアターだからこそ、“別の7.1チャンネル”を提案することで、ユーザーの選択肢を増やすことが重要だと考えています」(松浦氏)。

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