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「ネット」を政治の争点にしよう小寺信良の現象試考(2/2 ページ)

» 2009年08月03日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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ネットユーザー独自の争点

 自民党のマニフェストには、情報通信政策として従来路線の「地上デジタル放送の推進・情報通信網の整備による地域間格差の解消」と、「IT利活用社会の実現」が上げられている程度である。

 一方、民主党のマニフェストには、「政と官の関係を抜本的に見直す」という項目の中で、「政治家と官僚の接触に係わる情報公開などで透明性を確保する。」という程度の表記しかない。

 正式なマニフェストは公示後に発表されるので、また表現が変わるかもしれないが、IT推進とかいったふんわりしたお題目では争点にならず、票にならないというのが現在の政治家の見方のようだ。

 だが個々の問題を丁寧に見て行けば、議員各個人がどの立ち位置なのか、ということが重要になってくる。例えば医薬品であれば、ベテランの薬剤師が相談に乗ってくれるネット販売と、コンビニのバイト店員が行なう対面販売のどっちが安全か、といった問題である。また児童ポルノの単純所持規制をすれば児童ポルノの製造が減るとする主張と、あいまいな児童ポルノの定義のままに実行されて大量の冤罪を発生させてしまう事態のどちらを取るか、といった2軸に落とし込んでみると、これはもうマニフェストだけではカバーできないわけである。

 政党としての立場からもっと踏み込んで、議員各個人の考え方を知るためには、質問してしまうのが一番早い。そう考えてインターネットユーザー協会(MIAU)では、衆院選に立候補している方々にインターネットに関わる政策を10個選びだし、それに答えてもらうという活動を始めた。

 質問に対する回答は、まとめて政治家のデータベースとも言える「政論検索」に集約し、有権者が自分の選挙区の候補者がどのようなスタンスの人なのかを調べられるようにするのだ。これまで選挙と言えば、当日にポスターを見て人相で決めるとか、なんとなく名前を聞いたことがあるからといった理由で投票していたかもしれないが、このような情報収集を行なうことで、より明確に、誰を選ぶべきなのかがはっきりするわけである。

 今や携帯電話も含めてインターネットの世界で中心となっているのは、だいたい20代から30台半ばぐらいまでという認識でほぼ間違いないかと思う。ところが投票率という意味では、ちょうどそのゾーンが一番投票を棄権している。2007年の参院選では、20歳から35歳未満では、人口約2500万人に対し、約40%の1000万人しか投票していないという。20代に限定すればさらに顕著で、人口約1500万人に対して、約33%の500万人程度しか投票していない。

 若者が投票所に行けば政治が変わると言われて久しいが、なぜこうなったのか。それは、若い人に関心がある問題が、政治の論点になっていないからである。ネットに無関係な生活をしているお年寄りはネットで薬が買えなくても何も困らないが、昼間薬局などに立ち寄る時間のない若者は困るわけである。しかし若者に便宜を図っても票にはならないので、政治家も若いやつがどうなろうが知ったこっちゃない。若者はそれを見て、政治では何も変わらないと思って、ますます政治から無関心になっていく。

 だがネット利用の問題は、若い人ほど関係が深いのである。それならば、政治の争点としてネットの問題を持ち込むことが、若者層の投票率アップに繋がる、ということになる。選挙に行くなんてダサイなどと言ってる場合ではない。何もしなければ、政治はどんどんネットを規制し、より窮屈なものに仕立ててくるのだ。

 ネットのような大きな話は、市議会や都議会では扱えない。今回の衆院選は、ネットユーザーの意向を示す非常に限られたチャンスなのである。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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